第二章④
娯楽小説のコーナーまでやってきたミリアは、壁を背にした書架の一番上の段を見上げた。目当ての本はそこに並んでいる。踏み台を使わなくてはならない高さだ。
いつもは五段の踏み台を使うのだが、近くには低い三段のものしか見当たらなかった。
ものは
こうなると
指先に力を入れ、ぐっと引っ張る。
もうちょい、もうちょい、と
取れた。
そう思い、かかとを下ろした
バキッ
「ぅわっ!」
支えをなくして
ぐらりと本棚が手前に
落ちてきた本から顔をかばおうとして、腕が顔の前に出た。
踏み台から落ちるのを防ぐことも、倒れてくる本棚を避けることもできず、目を閉じて身を
その腰に
ばさばさと本が落ちる音と、ガゴンと物同士がぶつかる音がした。
予期した
本棚と
もうもうと
助かったのだと知って体の力が抜けた。
すると、はぁぁぁ、と
見ると肩の上に誰かの頭が乗っていた。
後ろで束ねた銀色の
床に座り、ミリアを後ろから
「
アルフォンスが顔を上げた。
わっ。
ミリアは息を飲んだ。
深い緑色の
ウエストに回る腕の
「どこか痛みますか?」
ミリアの頭は真っ白になって、何も考えられなかった。
「ミリア嬢?」
アルフォンスは体の向きを変え、ミリアの頰に手を
ミリアの口がぴくりと動いた。
それに反応してか、アルフォンスの親指がわずかに頰をさすった。
「……てください」
許容量の限界だった。
「え?」
「離して下さいっ!」
ミリアはアルフォンスを
しかし直後に、はっと我に返る。
助けてもらったのに何てことを……!
「ああっ、すみませんっ、怪我はありませんか?」
「私は
「私も怪我はしていません。助けて下さってありがとうございました」
立ち上がったアルフォンスが手を差し出してくれて、ミリアも立ち上がった。
改めてお礼を言おうとしたが、派手な音を聞いて駆けつけた職員に
事故の原因は踏み板が
職員に何度も
「アルフォンス様、さっきは本当にありがとうございました」
「いいえ。怪我がなくて何よりです」
「何かお礼をしたいのですが」
言葉だけでは気が済まない。大怪我をしたかもしれないのだ。
多少入手が難しい物でも、商会の
さあ来い! とばかりに構える。
「でしたら──」
アルフォンスは目をそらしてあごに手を当て、何かを考えるような仕草を見せた。
「──少々手伝って頂けませんか?」
アルフォンスの正面の席を手で示されて、
その前に書類の束がとさりと置かれる。
「書類に
状況についていけず目をぱちぱちさせているミリアを置いて、アルフォンスは書類仕事に戻ってしまった。
さっきみたいに、計算間違いとか、値段のおかしな
つやつやとした銀糸のような前髪の
実は
私、この
思い出すとまた
あれは事故。あれは事故。
心の中で唱えるが、視線はアルフォンスに
すると、ふとアルフォンスが顔を上げて、眉を寄せた。
「やりたくないのなら結構ですが」
「やります!」
これはお礼なのだ。やるに決まっている。
ミリアはさっそく書類に目を移した。
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