第二章③
この日、
最高だった……。
読み終えた本をぱたりと閉じ、ハンカチを目に当てる。
しばらく
すると、視界の
ミリアの中にいたずら心がわき上がる。
昨日の仕返しをしてやろう──。
ミリアはこのひと月、エドワードのお茶会の誘いを断るだけでなく、廊下で呼び止められても聞こえないふりをし続けるという作戦も実行していた。もしや
それを昨日「殿下を無視するのですか」とアルフォンスにとがめられたのだ。お
味方に後ろから
ミリアは気づかれないように後ろからそっと近づいた。驚いた顔を想像してほくそ笑む。
アルフォンスは閲覧スペースの端の席に座り、テーブルの上に紙を広げていた。蔵書を参照しながら書類仕事をしているようだ。
うん?
アルフォンスの横に立ち、目に入った数字に、ミリアは
無意識に
ふとアルフォンスが顔を上げた。ミリアを認めて目がわずかに見開かれる。いつも
やった!
驚かせてやった。仕返し成功だ。
いい気分になったミリアは、見ていた書類をとんとんと指で
「これ、計算間違ってますよ」
「のぞき見ですか」
アルフォンスが
「すみません……」
目の前で広げられているとはいえ、
アルフォンスはミリアを一にらみすると、ミリアが
「確かに……誤っていますね」
感情の乗っていない
「ではこれで」
用は済んだとばかりに、ミリアはアルフォンスから
しかし足を踏み出す前に、アルフォンスが別の書類を一枚差し出した。
「こちらはどうですか?」
「合ってそうですけど……」
ざっと
それより、この値段……。
「紙とペンがないと正確な数は出せません」
ミリアには
「ありがとうございます」
「いいえ。では」
今度こそ立ち去ろうとアルフォンスに背中を向ける。
だが、やっぱり言っておこうと思い、足を止めてくるりと振り返った。
「相場よりだいぶ高い布地を使っているようですね。見た感じ、
書かれている内容通りなら、通常価格の二、三倍はしている。
アルフォンスは厳しい顔で、受け取った書類とミリアを
うーん、
「布地の価格……」
アルフォンスの呟きは、小言を言われる前に、とさっさと立ち去ったミリアには聞こえていなかった。
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