第二章 仕事は楽しいです

第二章①


 放課後、生徒たちは思い思いに過ごす。

 部活動とまではいかないが、しゅに興じるグループがあって、しゅうをしたり、定期的にお茶会を開いたり、ダンスの練習に、けんじゅつを始めとした武術のたんれん、果ては自分の馬を持ち込んで馬術をする者までいる。ミリアも一応馬には乗れるものの、急ターンをしたりさくえたりまではできない。荷馬車なら大人顔負けにあやつる自信があるのだが。

 どこのグループにも所属していないミリアの放課後の過ごし方は、もっぱら図書館での読書だった。借りて部屋で読むより集中できる。単純に本に囲まれているのも好きだった。

 冬休みを終えてから全く行っていなかったが、ストレスがまっていたミリアは、現実とうをすべく、久しぶりに図書館にやってきた。

 ローズが転生者なのか確かめようにも、ミリアが近づこうとするとことごとくれいじょうたちにブロックされてしまうのだ。少しくらい現実逃避したくもなる。

 国内くっの蔵書数をほこる図書館は、モダンなふんえられた校舎とはちがい、石造りでどっしりとしたおもむきがある。

 ほんだなに並べられている分だけでなく、書庫にはもっとたくさんの本がねむっているという。

 試験前には自習をする生徒でにぎわうが、平時はミリアのような変わり者しかいない。

 たまに、学園外から蔵書を求めてやってくる研究者のような人も見かけた。めんどうな手続きをめばここまで入ってこられるらしい。

 ミリアが目指すのは、そういったこうしょうな書物ではなく、らく小説が並ぶしょだった。

 本を日焼けから守るために窓には分厚いカーテンがかけられていて、館内はうすぐらい。

 ぽつりぽつりとかべにあるランプの光だけがたよりだが、ミリアは迷いなく目当ての本棚へとたどり着いた。

 本は手書きゆえに高価で希少だ。

 父親に何冊か買ってもらっていたが、シリーズものを全巻そろえるのは無理だった。

 それがここには全てある。れんあいものからぼうけんものまでり見取りだ。

 この場所を見つけた時には、この学園に入学できたことを心の底から感謝した。貴族になどなりたくはなかったが、これだけは良かったと言える。

 ミリアは本棚から一冊すと、足取り軽くえつらんスペースに向かった。

 本棚の間にも閲覧席があるが、光源はランプしかない。時おりれる光の下で読むと目がつかれる。

 しかし、図書館の一辺にある閲覧スペースにはカーテンがなく、ガラスしの日光の中で本を読むことができた。テーブルの間には座れば視界がさえぎられるくらいの高さのついたてがあって、他の利用者の目が気にならない。

 試験前には真っ先にまる場所なのだが、今はぽつりぽつりと利用者がいるだけだった。

 ミリアはさっそく空いているテーブルに着き、わくわくしながら本を開いた。


「はぁ……」

 最後のページを読み終えたミリアは深くため息をついた。

 ひかえめに言って最高だった。

 特にラストが良かった。ヒロインのおもい人がさらわれたヒロインを助けに来る所。

 だんは冷静な彼がなりふり構わずけつけ、悪漢を次々とたおし、ヒロインの無事を知ってあんみをかべるのだ。

 ぱらぱらとページをもどし、そのシーンをかえる。

 二人の気持ちはまだ通じ合ってはいないが、両想いであることはちがいなかった。

 じれったい。だがそれがいい。

 早く続きを読まねば。

「わっ」

 顔を上げたミリアは、目の前に人がいるのに気がついておどろきの声を上げた。

 同時にここが図書館であることを思い出し、ぱっと口をおおう。

 向かいに立っていたのはアルフォンス・カリアードだった。

 席に座るでもなく、ただそこにいてミリアを見ていた。

「何かご用ですか?」

「いいえ、通りかかっただけです」

 通りかかっただけって……。

 いつからいたの?

 かぁっとミリアのほおが赤く染まった。

 読みながら絶対にやにやしていた。少なくともラストは。

 ヒロインがさらわれ殺されそうになる所は手にあせにぎってはらはらしていただろうし、彼に想い人がいるとかんちがいしのうするシーンではなみだぐんでいたかもしれない。

 最後だけなら……いや、にやけ顔が一番やばい。

 そこはだまって見てるんじゃなくて、知らないふりをして歩み去るのがしんじゃないの?

 ミリアがアルフォンスをにらんだが、その無表情は変わらなかった。

 何を考えているのかわからない。これなら笑われた方がましだ。

 用がないならこちらも構うことはない。

 ツンと顔をそむけ、ミリアは立ち上がった。無視して続きを取りに行くのである。

「令嬢がそこまで感情を表に出すものではありません」

 ぐっ。

 冷ややかに言われた言葉に、やはり見られていたのだ、とずかしさが込み上げてきた。

「ご忠告、ありがとうございます」

 ミリアは、アルフォンスに言われた通り、作りがおで感情を覆いかくし、今度こそ本を取りに行った。

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