第一章⑥
食事中の話題は、主に冬休み中のことだった。
ミリアは聞き役に
エドワードは王太子の政務として各地の視察に行ってきたそうだ。書類仕事は学園でもできるが、移動を
ジョセフはエドワードに同行したり、
アルフォンスは父親の政務を手伝っていたとのことだった。機密
三人とも卒業を前にして、周囲のプレッシャーにさらされたようだ。
成人を迎えるのは十七歳だが、卒業すればほぼ大人として
その点、ミリアは気楽だった。
卒業後は今よりも責任ある仕事を任されるようにはなるだろうが、
食事を終えても、四人はお茶を飲みながらしばらく会話を続けていた。
ふと我に返ると、周囲の席がびっしりと
そわそわしていると、アルフォンスが
「ミリア嬢、もっと話していたいのだが、そろそろ行かなければならない」
エドワードが立ち上がったので、ミリアも一応挨拶のため立ち上がる。
するとその横へなぜかエドワードが回ってきて、ミリアの手を取った。
「また一緒に昼食をとってくれるだろうか?」
「……お時間が合えば」
エドワードは少しだけ眉を寄せた。そして──。
「楽しみにしている」
──
反射的にミリアは手を引き抜こうとしたが、エドワードはそれを許さなかった。痛いほどにがっちりと強く
どよっと周囲の空気が動いた。
エドワードはそのまま口を離さずに、上目遣いでミリアを見た。
「
アルフォンスが非難の声を上げる。
するとエドワードは
そして目を細めて今一度にこりと笑うと、身をひるがえし、アルフォンスとジョセフを連れてカフェテリアを出て行った。
一人その場に残されたミリアは、胸の前で口づけられた右手を左手で握り、うつむき真っ赤になって
こんな所で何してくれちゃってんの!?
手の甲に口づけるのは夜会などで行われる挨拶の一つだ。しかし、今ここは真っ昼間のカフェテリアである。友人同士でするものではない。
しかもなんなのあの目は! 口づけの長さは! 音は!
エドワードの気持ちがミリアにあることを周囲に見せつけるかのようだった。
その場にローズがいなかったのは幸いだが、噂はあっという間に、それも
頭をかきむしって
顔がいいお
これだからイケメンは嫌なのだ。
◆◇◆
王族やすでに爵位を継いだ貴族のために用意されている執務用の建物へ向かう途中、アルフォンスはエドワードをとがめた。
「やりすぎですよ」
「あれはミリアも
アルフォンスの
「ジェフに言われたくはない。だいたいお前はなぜミリア嬢を呼び捨てにしている」
ジョセフは女性に対して非常に軽い。常に
「俺はそういうキャラだから」
アルフォンスはそれもどうかと思ったが、それより今はエドワードだ。
休暇明けに久しぶりに会えて
「まさか、ミリア嬢を
「王妃とまでは……考えていない」
「ミリアは遊びってことか? ひどいな。女性には俺みたいに誠実でいないと」
「お前が言うな!」
「二人とも」
アルフォンスの厳しい声に、エドワードとジョセフが黙る。
「殿下にはローズ嬢がいます。このままだとハロルド侯爵家も黙っていないでしょう。今一度ご自分の立場を考えて下さい」
「……わかっている」
わかっていないから言っているのだ。
「どうしてそんなにミリア嬢に
「……ミリア嬢は、今最も勢いのあるスタイン商会の会長の娘だ。繫がりを持っておいて損はない」
エドワードはもっともらしく言ったが、それだけでないのは明らかだった。
なぜミリアに
言動は優雅とは程遠く、容姿がそれほど整っているわけでもない。話すことと言えば
それでも、心で想うだけなら好きにすればいい。
だがエドワードは王太子なのだ。
卒業までのあと半年、何もなければいいが、とアルフォンスは思った。
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