第一章③
スタイン商会は、行商だったミリアの父親、フィン・スタインが一代で
その本部は、王国の第二の都市、フォーレンにある。
中央広場に面してでんと建っているその建物は、いかにも成金といったごてごてとした
その建物に入るには少々
ミリアが姿を現すと、「お嬢!」「ミリア様!」と受付の従業員から声がかかった。
「今まで何してたんですか。帰ってきたらすぐ顔出して下さいって言ったじゃないですか」
「学園はどうだ? ちゃんと卒業できそうか?」
「あのお
客そっちのけで口々に好きなことを言ってくる。なんだか失礼な発言が混ざってないか。
「父さんいる?」
「会長なら
「そう、ありがとう。みんな、お客様をお待たせしていないで、ちゃんと仕事して」
「はーい」
気のない返事が返ってきたが、こうして受付を任され、そのまま中で商談に入れるくらい、彼らは
執務室にはすぐ着いた。
「ただいま、父さん。リックから呼んでるって聞いたんだけど」
ミリアは、父親が男手一つで
記憶を取り戻した今となっては、尊敬の念はさらに強くなっていた。
「お帰り、ミリィ。さっそくで悪いが、出かけるよ」
言いながら、フィンは座り
ああやっぱり。
ミリアの予想は当たっていた。
◆◇◆
馬車の向かいの席に座った父親をじっと見る。
太り気味のフィンは、しかしフットワークは軽い。行商人だった頃の感覚が
口ひげを生やした丸い顔でにこにこと笑っているといい人にしか見えない。
思っていることがすぐに顔に出て腹芸のできないミリアには、
ミリアたちは今し方近くの街の養護施設で、商会で働きたいと志願する子どもから、引き取る子を一人選んできたところだった。
先ほどの光景を思い出し、
数人の候補の中からその子を引き取ると決めたのはミリアだ。子どもたちには悪女に見えていたことだろう。希望して引き取られていくのだとわかっていても。
その子は、数日後に別の従業員が
志願する子どもを引き取り、最低限の教育を受けさせ、見習いとして働かせ、一人前になれば正式に
恩を感じてなのか、引き取られた子はよく学びよく働く。
ミリアがこの制度に関わっているのは希望してなのだが、こうして引き取る子どもを選ぶのだけは、毎回気が進まないのだった。
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