第02話 異世界転移とか普通に考えてアタオカだよね
都会では嗅ぎなれない自然の香りが鼻孔をくすぐる。
目を覚ますと、そこにはだだっ広い夜の草原が広がっていた。
「痛っ……えっと、ここは?」
見覚えのない景色に戸惑う。
というか、いつのまに眠ってたんだ僕は?
たしか、いつもと同じように自己鍛錬に励んでいたはずで……
あ、そうだ! 思い出した!
あの得体のしれないエロアニメを見ていたら、天使風美女にどこかに飛ばされたんだ!
我ながら、阿保なことを言ってると自覚はあるが、それ以外に現状を説明できる方法がないので致し方ない。
あの時、最後の方に「私が管理する世界」とか言ってたから、もしかしてそれでここに飛ばされたのかな?
うーん、つまりこれはちょっと前にアニメとかラノベとかで流行ったあの異世界転移ってこと?
だとしても、どうして僕が転移してきたんだ?
ただのオナニーを愛する高校二年生を異世界に飛ばしたところで、たいして活躍なんてできませんよ?
疑問は尽きないが、とにかく今僕がすべきことは現状の把握だ。
着ていたジャージはあるが、被っていたはずのVRゴーグルはいつの間にか消えていた。
なるほど、これが僕の装備か。
次は今の自分がどんなところにやってきたのか確認するために周囲を見回してみる。
「……森? だよね、ここ」
自信なさげに独り言をつぶやく。
なんの種類か分からないけど、背の高い木々が辺りには何本も生えていた。
が、それ以外は分からない。
月明かり以外の光源がない現状では、これ以上調べようがなかった。
おまけにとても濃い霧に包まれているため、やばいくらい視界が悪い。
本来なら、こういった場合はあまり歩くべきではないのだろう。
でも、まだ異世界と心のどこかで認めきれていない僕はそのまま夜の森の中を進んでしまった。
だって、やっぱりおかしいでしょ?
僕だってそれなりに転生系のアニメやラノベを見てきたけど、オナニーして異世界転移なんて聞いたことがない。オナニーして並行世界にいくエロゲなら知ってるけどさ。
それに一応、理系志望の僕としてはご都合主義での転移なんてとてもじゃないけど信じられない。
瞬間移動ですら人間には難しいと言われてるのに、異世界への転移なんてもっての外だ。
そう息巻いたのはいいものの、僕のそんな考えはものの数分で砕け散ることになる。
「……なんだ、あれ」
絶句する僕は足を止めて目の前の光景に固まる。
そこには、視界の悪い霧の中でも見えるほど大きなシルエットをした虫がいた。
その大きさは二メートル前後。横に平べったいまるで盾のような外殻を持っている。
なんなんだよ、こいつ!?
明らかに前の世界にはいなかった生物を目の当たりにして、僅かに抱いていた希望が粉々に砕け散る。
その姿を目撃すると、自然と頭の中に「モンスター」という単語が浮かんできた。
そう、モンスターだ。こんなのが地球にいるわけがない。
ヒィッ! と情けない声を洩らしながら、巨大甲虫が去っていくのを震えて待ち続ける。
しばらくして、ようやく虫が去ると、ホッと安堵の溜息を洩らした。
緊張が解けたためか、その場に座り込んでペタリと尻餅をつく。
そして、そのまま地面に倒れこんだ。
「ああ、認めるよ。……ここは異世界だ」
仰いだ夜空には、紫色をした満月が僕を嘲笑うように爛々と輝いていた。
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