VRオ〇ニーをしていたら異世界転移してました~特異体質【マスター・ベーション】はどうやら異世界で鬼強のようです~

うすしお味

プロローグ 初めての異世界転移編

第01話 VRエロ動画ってマジ最高だよね

 いたって平凡などこにでもいる普通の高校二年生。

 それが、この僕——霜根辰郎しもねたつろうに相応しい紹介文だろう。

 高校でも平均的な学力を維持し、スポーツはできないこともないが人より優れている訳でもない。特別これといった才能がない人間。それが僕だ。

 だけど、そんな僕でもたった一つだけ人よりも情熱を注いでいるものがある。

 そして今日も僕は学校から帰宅すると、その行為に心血を注ぎ、見識を深めるための実験に勤しむのだった。


「……よし、誰もいないね」


 STEP1~まずは家の中に誰もいないことを確認しよう~

 これは僕がこれから行う行為のための必要なプロセスの内の一つだ。

 この作業には途轍もない集中力がいる。そのため、両親がいないことは必須条件なのだ。

 家の中に誰もいないことを確認すると、僕は少し緊張した手つきで鍵付き引き出しの戸を開ける。

 そして中から、この実験の中でも極めて重要な装置を取り出した。


「ゴクリ……ふっ、いつ見ても美しいフォルムだ」


 機能美という言葉はまさにこれにこそ相応しい。

 銀色のメタリックカラーは武骨だが、性能を追い求め、最低限のフォルムだけ残した姿は圧巻の一言だ。アマドンの商品レビューで星4.5だったのも頷ける。

 僕は汗ばんだ手で目の前の装置——またの名をVRゴーグルという——を持ち上げるとカバーを開いてスマホを装着した。

 よし、これでSTEP2も完了だ。

 残る工程はあと一つ。だが、ここまでくれば後はもう難しいことは何もない。

 クローゼットから寝間着を取り出し、動きやすい服装に着替える。

 そしてベッドにダイビングするように勢いよく飛び込むと、VRゴーグルを顔正面にセットした。


「——さて、そろそろ始めようか」


 STEP3~ただひたすらに快楽に身をゆだねよ~

 いつもと同じようにムスコを召喚すると、右手をセッティングポジションに移行する。

 ……さて、ここまで説明すれば勘の良い人なら僕が心血を注いでいるこの実験の正体も分かったことだろう。

 そう、僕の実験とはつまり——オナニーのことだったのだ。

 なんだ、ただの自慰行為じゃないか……と、オナニーに対して見識の低い人間は思うだろうが、この際僕がハッキリと言わせてもらおう。


 オナニーとは修行である!


 人は自分自身のことについて意外なほど理解していないことが多い。

 だが、オナニーをすれば自分自身のことについてより深く知れるようになるのだ。

 自分の発射タイミング、持続時間、好きなネタ……その他諸々のそれまでは気が付かなかった深層心理に眠る未知なる自分自身に出会う行為、それこそがオナニーの神髄!

 かの仏教で有名な無我の境地とは、まさにオナニーのことだという説もあるほどだ!

 まあ、後半は嘘だけどね。

 とにかく、そんな訳で僕はオナニーに関しては少し人よりもこだわりを持っている。

 特に最近のお気に入りはこのVRオナニー。一人称視点で描かれる臨場感ある映像には、舌の肥えた僕のムスコも大絶賛。これからは、ぜひ周りの友達にも布教していきたいと思う。

 高校のエロゲ仲間たちの中でも変態紳士の称号をほしいままにしている僕は本日も一人、自己研鑽に励もうとしていた。


「へぇ、結構作りこまれてるね。この背景もまるで本物のお城みたいだ」


 動画が始まり映し出されたのは、アニメに出てくるような城の中だった。

 どうやら、このエロアニメのジャンルはファンタジーのようだ。

 ふふっ、嫌いじゃないぜ。いや、むしろ好みだね!

 近頃はエロアニメやAVを見すぎたため、こうしていつもお世話になっているエロサイトからランダムに選んでみるようにしている。そのため、始めるまで内容は分からないのだ。

 ソシャゲのガチャを引くようなこの感覚がたまらない! 数年前までのオカズ探しに毎回一時間かけていた僕はもういないのだよ。ふっふっふ!

 ちなみに僕はこのランダム再生の中で一つ自分自身に制約をかけている。

 その制約の内容は【絶対に一作品につき一回は絶頂を迎える】こと、だ。一つの作品に極限の集中をしてこそ、真のオナニストといえるだろう。


「さて、いよいよお出ましか」


 開始三分の世界観を説明する導入が終わると、ようやく今回の相手が現れる。

 おっ、相手はどうやら天使みたいだ。いや、女神という可能性もあるのかな?

 腰まで伸びた長く美しい銀髪が王城に飾られたジャンデリアの光が反射してキラキラしていた。こちらを向いているため、どこから生えているのかは分からないが肩の辺りから純白の羽が見える。

 てっきりお城だから、相手は姫かと思ったがどうやら違うらしい。

 しかし……フフフッ! どうやら、この動画は当たりだったみたいだ。

 ランダム再生した中には、たまに自分の好みとは一致しないジャンルの動画が流れることがあるが、今回はその心配はないようだ。

 目の前にいる天使(?)の女の子は恍惚とした表情を浮かべ、やがて僕が(全裸で)寝そべるベッドの縁に腰を下ろした。

 ……にしても、こんな動画あったっけ? あのサイトのエロ動画はほとんど見たはずだけど、こんな動画見たことがない。

 ま、エロければ何でもいいけどね!


「ふふっ、聖者様。今宵は私と一緒に存分に楽しみましょう?」


 え、ええぇ、エッチだ……! 

 グラフィックもさることながら、声優さんの演技もまたイイ!

 しかし、まさか僕の設定が聖者とは。とんだ聖者もいたものだね。これじゃあ聖者じゃなくて性者だろ。

 なんてツッコミを内心していると、女の子は動きだし、その秘部をあらわにした。

 ——って、いきなりっすか!? 展開早くない!?

 前戯はどうすんのよ? もう準備OKってことなの!?

 これまでに数々の動画を網羅してきた僕の頭には、エロ動画の構成が叩き込まれている。

 ここでのテンプレは必ず前戯が入るはず。にもかかわらず、いきなりホールインワンとは。

 セオリーを無視した構成に、自然と口角が上がる。

 ふっ、ますます面白くなってきたじゃないか!

 ムスコを握る指をツーフィンガーから、スリーフィンガーにレベルアップする。

 さあ、僕を存分に楽しませてくれよ!?


「私と存分に乱れましょう——聖者様?」


 妖艶な流し目と共に心地よいハープのような彼女の声音が耳朶を打つ。

 ああ、最高だ!

 僕のテンションが最高潮に達する中、お楽しみの挿入タイムに……って、あれ?

 あと、ほんの数ミリというところで、動画がいきなり停止した。


「えぇ……せっかくイイとこだったのに……」


 あんまりにもなタイミングにイラつく僕。

 それから映像をもう一度、再生しようとゴーグルを外そうとする。

 が、いくら試してもゴーグルは外れなかった。

 ……おかしい。この尋常じゃない固さは異常だ。

 始めは髪の毛でも絡まってるんじゃないかとも思ったが、何度やっても取れないのはおかしい。というか、まるで接着されてるみたいだ。

 次第にゴーグルが外れないことに恐怖を感じていると、急に止まっていた動画が動き始めた。

 挿入数ミリで止まっていた美女が突如として、その動きを止めたのだ。

 なぜに、ここで焦らしプレイ?

 僕はゴーグルが外れないことも忘れて、動画の内容に見入る。すると、彼女はベッドから飛び降りて、急にその場に浮かびこちらを見下ろしてきた。

 その後ろにはなぜか、光の塊が浮かんでいる。口を開いたまま、言葉を失くす僕に向かって彼女は艶やかに笑うと、


「ふふふ、でもその前に、あなたにはこちらの世界に来てもらわなければなりません。ただの映像ではあまりにも色気がありませんからね♪」

「……はいっ?」


 いきなり、そんなことを言い出したのだ。

 ただの映像だ、そう分かっていても思わず反応してしまうほど、その声には意思のような何かを感じる。

 ホールドしていたスリーフィンガーを解除するほど混乱していた僕に、さらに追い打ちをかけるように彼女は告げた。


「さて、そろそろ導入の挨拶はこの辺にしておきましょうか」

「いや、ちょっとどういうことで……」

「続きはまた今度。そうですね、手始めに転移しちゃいましょうか」

「て、転移? ……って、どこに?」

「はい♪ もちろん私が管理する世界にですよ」

「へぇ、世界……えっ、世界? しかも今返事が……」


 彼女の言葉に唖然としてしまう。というか、今ナチュラルに僕と会話してませんでした?

 頭が「?」で覆いつくされていく中、謎の美女が指パッチンをする。

 すると、彼女の背後にあった光の塊が僕に向かってきた。


「え、ちょ、なんかヤバい予感が……!」


 十七年の人生の中で一番の悪寒が僕のことを襲う。

 だが、そんな泣き言を洩らす僕に向かって、無慈悲にも光玉は止まることはなく、そのままぶつかってきた。

 視界が強烈な光によって覆われ、意識が飛びかける。


「それでは、お待ちしてますよ。——早く助けに来てくださいね。旦那さま?」


 最後にそんな彼女の声を聞いた瞬間、僕の意識は白濁液のように遥か彼方へぶっ飛んでいった。











 こうして、霜根辰郎の地球での生活は唐突に終わりを迎える。

 だがそれは、彼のこれから巻き起こす伝説の始まりに過ぎなかった。

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