5-2

 報告を受けて一人アルカンの円形広場に来てみれば、建物は見る影もなかった。アルカン81‐24には瓦礫の山ができていて、周囲の家屋もいくつか倒壊している。市民はパニックになっていて、警察もそちらの対応に追われているようだった。深夜のため、警官の集まりも少々遅い。


「…………」


 みすぼらしい普段着と目深に被ったチューリップハットで変装したベイドリックは、円形広場の隅からしばらく様子を見ていたが、建物周辺には近づけそうになかった。


「……裏に回るか」


 市民と警察の目を盗んで建物の裏にある路地に移動する。まだそこに警官の姿はなく、ベイドリックは建物の真裏に足を進める。

 一体何があったのか。

 この時間ならば、グラン・ミネラの下見に行って、おそらく戻ってきていた頃だ。むこうで何かトラブルでもあったのか。


「ん?」


 そこでベイドリックは、路地の端にあるものが転がっているのを見つけた。円筒形のハットボックスで、奇跡的にも焼けず潰れずそこにある。十中八九、アルカンサーカスの建物から出てきたものだろう。


「…………」


 なんとなく気になって、ベイドリックはそれを手に取った。中途半端な重みを感じながらふたを取り去ると――そこには見覚えのある衣装一式が詰まっていた。


「これは……」


 ベイドリックは左右に首を振り、誰もいないことを確かめる。ふたを閉じて、再び建物のあった方へ足を進める。そして建物の真裏、ガレージのあった位置まで来て瓦礫を見上げた。


「……彼らは、どうしたというんだ――」


 だがちょうどその時。なぜか足下の地面がぱっかり開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る