4-5
煙幕は徐々に晴れていた。ライルはグラン・ミネラの裏に向かってジェスターを走らせる。そこでがたんとルーフで音がした。ブーツですっ飛んで、ミアが戻ってきたのだろう。これで全員戻ってきた。無論エリザベートも。
「大丈夫だったか、ミア」
「燕尾コート切られたけど、それだけ」
言いながら、ミアが車内に潜り込む。コートは防刃のはずだが、連中の持つごついナイフは防ぎきれなかったらしい。あるいは振るった者の技術が卓越していたのかもしれないが。
(にしても、ホント何もんだあいつら……)
マフィアのカジノをこうも強引に襲撃し、シャドーエメラルドを強奪しようとした。ドラモンドと接点があったということは、同じくマフィア――あるいは闇商人のいち組織か何かか。
この前の〈公演〉でユアンがカトリーヌの船員から『ヴェスパー社』という名前を聞いていたようだが、それとも関係があるのか。ベイドリックにもその報告は上げてあるので、いずれは何か情報を掴めるかもしれない。
しかしライルはとりあえず考えるのは後回しにした。今は追手が付かないように逃げなければならない。ライルはグラン・ミネラ裏口の塀に向かってジェスターを走らせる。
「シエル、頼むぜ」
「オッケイ」
助手席にいる彼が赤いボールを取り出す。彼の赤いボールは、火薬玉。
彼は窓からボールを塀に向かって放ると、〈ベルベット〉を取り出してそれを撃ち抜く。ボールは大爆発し、火炎と衝撃が塀の一角を吹き飛ばす。
「フィナーレ」
ジェスターはその穴に滑り込み、黒煙の幕の中へと捌けていった。
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