4-2

 ――やっぱり、らしくいこう。

 カジノ地下の管理区画。ヴァレリーが率いるイクリプスの小隊と共にドラモンドを連行しながら、クローゼはそんなことを考えていた。今ドラモンドは手を後ろでまとめられ、ヴァレリーに拘束されている。

 それを横目に見て、クローゼは鼻を鳴らす。

 策を弄して、スマートに。そのやり方も否定はしない。だがまだるっこしい。相手をねじ伏せるだけの力がある自分に、そんなものは必要ないのだ。小手先の作戦など、卑小な弱者のためにあるもの。最新の攻撃飛空船と最強の歩兵集団を従えた自分に恐れるものなどなにもない。

 一行は淡々と管理区を進む。向かっているのは、シャドーエメラルドが収められている金庫室だ。場所は管理区の最下層最奥。以前シャドーエメラルドについての商談の際、一度だけ訪れたことがあったので位置は知っていた。その内部までは入ったことはないが。

 管理区というだけあって、周囲には時折武装した黒服の姿が見えた。しかしボスが囚われている状況で手出ししてくる者は皆無で、彼らは物陰で歯噛みしている。

 ただそれはそれで鬱陶しいので、手すきのイクリプスに指示して適当に殺させた。相手の戦意は根こそぎ奪っておくに限る。すると、ドラモンドが呻いた。


「クローゼいい加減にしろ……! どれだけ殺せば気が済むんだ……!」


 だがクローゼは見向きもせず、


「黙って歩け。豚野郎」

「なぜだ! なぜそこまでシャドーエメラルドが欲しい!?」


 小さくため息をついて、クローゼはジャケットの内にあるショルダーホルスターから黒いオートマチックを抜いた。スライドを引いて安全装置を解除。ドラモンドの肩口に照準し、背後のヴァレリーが射線をずらしたのを見てトリガーを引く。


「ぐぉ……」


 ドラモンドの肩に、赤が広がる。


「黙れってんだよ、バーカ」


 その後隊は、滞りなく金庫室前に到着した。堅牢な円形の扉を前に、クローゼはヴァレリーに視線で指示する。ヴァレリーは小さく頷いて、ドラモンドを認証端末の前に立たせた。彼女が強引に指紋と網膜を認証させると、それぞれロック解除のビープ音が鳴る。


「主幹」


 ヴァレリーに促され、クローゼは懐から樹脂製のカードが繋がった小さな端末を取り出した。これは自社開発の金庫破りセーフクラッカーで、機材に繋がったカードをシリンダーに差し込めば、ものの数秒でカードキーロックを破れるという優れモノだ。

 ここの三つ目の鍵がカードキーであることも、以前訪れた時に記憶していた。

 セーフクラッカーは問題なく作動し、ロックは全て解除される。あくまで正当な手段で侵入しているので各種防犯装置も作動せず、金庫室の扉が横にゆっくりスライドしてゆく。

 クローゼは引き続きドラモンドの拘束をヴァレリーに指示し、全員で金庫室へ。

 金庫室は、それなりに広いものだった。壁にはシリンダー錠付きの小型ロッカーがずらりと並んでいて、一部金などは金属製のカーゴにむき出して積まれていたりする。


「探せ」


 クローゼが指示すると、ヴァレリー以外のイクリプスの面々が、ポーチから小型のドリルを取り出して散った。手当たり次第にシリンダー鍵をこじ開け、中身を探る。

 しばらくして、隊員の一人が声を上げた。


「クローゼ主幹」


 近づいてきて、小ぶりなアタッシュケースを差し出してくる。受け取って開けると、中にはスクエアカットされた黒い宝石が収まっていた。クローゼは前髪をかきあげると、ドラモンドに向かって笑みをこぼす。


「あっはは、じゃあドラモンド。これで商談はクロージングね」

「貴様……!」


 屈辱に染まる彼の顔はとても醜いものだった。

 ああ、スッキリした。これだ。これを直に見たいがために今日ここへ来た。

 けれど。


「もういい」


 彼の抱えた憤怒はそう簡単には消えぬのだろう。彼が復讐を考えるのは明らかで、それはとてもとても面倒なことだった。ゆえにクローゼは何の躊躇いもなく命じた。


「殺せ」


 瞬間、ヴァレリーのククリナイフが閃いて、ドラモンドの首が滑らかに斬断された。

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