2-10

 それを目の当たりにしたとき、船橋にいた船員は、ハーマンは、ただ恐怖した。

 前方では、時間通り開いたはずのタワーブリッジ跳開部が、東側だけ閉じ始めていた。ハーマンは即座に停船指示を出したが、絶妙なタイミングで閉じた跳開部はみるみる迫ってくる。


「船長ぉっ! ダメです! 間に合いません!」


 恐怖に震えた操舵士の叫びが最後だった。衝撃が船橋を揺るがし、全員が床に放り出される。

 ハーマンが立ち上がった時には、カトリーヌは船橋を橋架に激突させて停止していた。




 また同時刻。タワーブリッジの東口では、一台の軽キャリッジが係員の静止を振り切ってゲートを突破していた。てんとう虫のような見た目の空色のキャリッジは、停船したカトリーヌの直上まで驀進し、停車。中から出てきたのはドミノマスクと燕尾コート姿の三人組。

 その場にいた橋の警備官らは銃を向けたが、三人組のうち一人が鳥を使って警備官をひるませると、その隙に残りの二人が驚異的な足技と怪力で警備官全員を瞬時に打ち倒した。

 その後彼らは二手に分かれ、カトリーヌの船首と船尾方向に、それぞれ飛び降りたのだった。

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