第9話

 風呂に入った後冒険者ギルドを出て、次に向かったのは商人ギルド。途中で屋台に寄ってライ麦パンと塩味の肉串焼きを買い挟んで食べた。牛肉のような見た目だが鶏肉の味がして意表を突かれたが旨い。付け合わせはコップで売られていた塩の辛みと野菜の出汁がきいたスープ。これも香辛料が少ないこの地方では満足できるできだ。熱すぎず、温すぎないのもまた良い。

 商人ギルドではのんびりとした雰囲気で時が流れていた。向かい合ったソファで商品を出し合って話し込んでいる人がちらほら。カウンターでは気の抜けた受付嬢があくびを噛みしめている。・・・・・・とりあえずカウンターへ。

「こんにちは。初めてなので勝手がわからないんですけど」

「はい。初めまして。商人ギルドへようこそ。お客様はどういったご用件でしょうか?」

「非公開にしていたレシピを公開してもらいに来ました」

「レシピ公開ですね?失礼ですがお名前をお伺いしても?」

「名前はアランです。ドラム村のエリフォードの息子の」

流れるように応対してくれた受付嬢は俺の名前を確認すると手元の魔道具を操作する。

「はい。一件レシピ登録されていますね。このレシピを公開しますか?」

魔道具を回して該当するレシピの確認を取ってくる。レシピ名を言わない事に好感が持てる。

「はい。よろしくお願いします」

「承ります。公開時間は明日の早朝まで待ってもらう事になりますがよろしいですか?」

「かまいませんが・・・・・・。このレシピ、誰かに教えた場合どうなりますか?」

「場合によりますね。公開の意思を示していただいたので今現在からレシピの使用は原則許可が下りるのですが、レシピを購入されていませんと罰金があります。しかし、本人直筆のサインが入った許可書類をお伝えになった方に掲示していただきますと、レシピを購入した事として扱われます」

「わかりました。ありがとうございます」

「レシピの使用料は一旦商人ギルドに集められてお渡しになりますが、このレシピですとレシピ登録者が死ぬまで毎月商人ギルドへお越しにならなければならないのですが、商人ギルドに加入されますと口座を開設でき、そこへ振り込まれる形になるので商人ギルドへの加入をお勧めいたします」

「加入、お願いします」

そう言って首から提げていた冒険者ギルドのカードを渡す。

「承りました。少々お待ちください」

カードを受け取ると、再び魔道具を操作しカードをかざす。するとカードが淡く光り出してすぐに治まった。

「カードの提示、ありがとうございました。登録完了です。冒険者ギルドと商人ギルドは提携しておりますので口座の残高は合算され、どちらのギルドも合算された金額を引き出すことが可能となっております。但し、ギルドにも予算がございますので一度に引き出せる金額には限りがある事をご了承下さい」

「わかりました」

「はい。・・・・・・これにてご用件はお済みでしょうか?」

「はい、ありがとうございました」

「ありがとうございました。良い取引を」

よし。これで今日の用事は粗方片付いたな。

 受付嬢の気持ちの良い接客で気分が良くなり、意気揚々と商人ギルドを出る。それ程時間がかからなかったし、エリーと屋台でも冷やかして回るかな

「っとぉ!?」

不意にエリーが居そうな方へ視線を巡らせると、そこにはおどろおどろしい雰囲気のエリーが半目で睨みつけてきていた。ぶんむくれである。

「あーはははは。エリー、一応聞いておくけど、どうしたの?」

「・・・・・・胸」

は?胸?

「おっぱい、大きかった・・・・・・」

「・・・・・・そうなの?」

はて?そうだっただろうか?記憶を掘り起こそうとしてみるが発掘できない。

「あと!美人だった!」

そりゃまあ、受付嬢をするぐらいだから美人だろう。

「でも、エリーよりは美人じゃなかったぞ?」

あ、真っ赤になってうずくまった。街のど真ん中でしゃがむとか常識を疑われるから止めて。仕方ないので道の端っこの方までお姫様だっこで連れて行く。

 前世の話をしてから時々ポンコツになるのは何故なんだ。


「なんと!あのアラガスタ伯爵閣下がまた迷宮を踏破したと!」

唐突に声が挙がった。そちらへ目を向けると新聞を両手に持ってまじまじと見つめる男が居た。

 胡散臭く感じた俺は顔を巡らせある物がないか探す。

 有った。商人ギルドの正面。アンガーストン新聞社。・・・・・・販促運動か。

 アラガスタ伯爵閣下と言うのはちょっと前に魔王を倒した勇者について回り、食事の用意やらの雑用をしていた事で有名な冒険者兼運び屋ポーターだ。実力は折り紙付きで軍団に対して単騎で突っ込む勇者に戦場でもついて回っていて、それでも生きて帰ってきたという逸話まである。

 その功績で全世界の国々から伯爵位に陞爵され、伯爵の故郷であるサウスマン帝国を筆頭にアジール公国、ラスペッツァ王国、俺達の住まう国、アントリオン王国の四国が隣接する地域をアラガスタ伯爵に下賜された。アンガーストンやドラム村もこれに含まれる。

 アラガスタ伯爵閣下の名前はクック=アラガスタ。基本的に胴着を着込み、木製の鎧をーー

「あぁっ!!あの人、伯爵様じゃねえか!?」

唐突にクックさんの身分に思い当たり、狼狽える俺。クックさんに対する行動を振り返り問題になる事はないかを改める。

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