第8話

 発行された冒険者ギルドカードを受け取り、隅にあいている穴に紐を通して首にぶら下げる。これが身分証になるらしく、常に携帯し死亡したときにはこれが証票になるとの事。他のギルドに登録するときはこれを提示して情報の書き換えを行えばよいらしく、現代の日本よりも進んでいるところがあったのかと驚いた。

 その後はドブさらいの仕事を請け負い冒険者ギルドを出た。


 ドブ浚いの仕事は思っていたほどきつくはなかった。この町で初心者冒険者は多いのか、指定された区画は昨日、初心者冒険者が請け負った場所でここ一週間は楽な仕事が続いていると現場監督の市の職員が言っていた。・・・・・・初めての冒険者だから簡単な場所をやってもらうとも言っていたが。

 かくんかくんと曲がる町中を流れる上水路。そこに板を張って川の流れを変え、水が来なくなったところの泥を浚う。一見重労働だが、身体強化が使える俺やエリーには全く問題ない。

「・・・・・・『川底の泥濘よ彼の地に集まれ|動く大地≪ムーブメント・アース≫』・・・・・・なんちって」

それでも面倒になった俺は適当に詠唱した|想像魔法≪アイデア・マジック≫を放ってみる。発動する方がおかしい。

 が、

 自身の中から魔力が抜かれる。

 これは問題ない。不発だったとしても詠唱したらその分魔力を持って行かれるからだ。

 抜かれた魔力が泥へと覆い被さり黄土色に輝く。

 これも問題ない。何せ発動する前に自身の魔力を地属性に変えていたから。地属性の魔力は黄土色に輝き、地魔法を発動すると効果範囲が黄土色に輝くのだ。

 輝いた部分が、潮が引くかの如く動き出し、土手を駆け上がって監督が指定した泥の集積場所まで滑るように移動した。

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

一部始終を見ていた俺やエリー、それから現場監督のマンセルさんが呆気にとられる。

 ちなみに、想像魔法というのは|創造魔法≪オリジナル・マジック≫の前段階。いくつもある魔法語の中から適切な文言を選び出して発動させるモノを言う。発動したら何が原因で発動したのかを検証し、いらないモノを削除してから創造魔法に至るのだ。詠唱は大部分で目標物→望む結果と流れていくからその流れで詠唱したのが功を奏したらしい。

 のは解るのだが。

「消費がすくねぇ。もう創造魔法の域じゃねぇかこれ」

余計な文言を入れてしまうと消費が跳ね上がるもんだから最初に数字にして百や二百を消費するような想像魔法でも、創造魔法の段階になると十や二十程度まで少なくなるのが基本だ。しかし、俺が発動させた想像魔法の消費は数字にして五くらい。基本となる生活魔法の『|地よ≪アース≫』は一平米、十センチの深さで一消費する程度だから十平米程度を指定した俺が発動させた想像魔法の効率の良さを解ってもらいたい。

 川底には泥が完全になくなり白っぽい砂礫が見て取れる。視線を回せば山になった泥。

「よっし、俺の仕事終わりっ!」

「そういう問題じゃないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

俺のウキウキした声に反応して、エリーが吠えた。ちなみに、俺たちが請け負ったドブ浚いの範囲は二人で四十平米くらい。川の幅が五メートルくらいだから距離にして八十メートルだ。魔法を発動させるまでに二十メートルは監督からオーケーが出るまで浚ったから俺の仕事は言葉通り終わりだ。


 あの後エリーに泥浚い魔法を教えてごく短時間で仕事を終え、マンセルさんからランクA遂行の判子をギルド指定の紙に押してもらってギルドに帰ってきた。ごく短時間だったことで驚かれたが、魔法を使ったというとさらに驚かれた。まぁ、さすがに泥浚い程度で魔法を使おうと思う奴はいなかったのだろう。

「体調に不備はございませんか?泥の除去を魔法でやる人は大抵想像魔法なので、魔力枯渇でふらふらな人が大半なんですよ?」

やはり世が世なら横着する人は居るらしい。自分が使った魔法は魔力消費量が少なかったというと詳細を聞かれたので

「川川底の泥濘よ彼の地に集まれ|動く大地≪ムーブメント・アース≫って唱えました」

と正直に言うと、受付の人は手元の魔法道具に手をかざした後目をむき、

「登録されている魔法とまるっきり同じですね。初めての仕事ですし、この街に来たのもごく最近・・・・・・。こちらで習得済みの魔法として登録しておきます。想像魔法との事でしたので特例を適用しておきます」

「あ、はい。お願いします」

どう言う事かと聞くと、大抵の創造魔法は冒険者ギルドでレシピとして買い取り、それが広まって一般化されるそうだ。そして、俺が使った魔法はすでに冒険者ギルドで取り扱っている魔法で、購入すると鉄貨一枚の値がつけられているのだが、想像魔法だったという事で特例で購入費用は免除。購入の時に使用できる魔法を冒険者ギルドの情報端末に入力するそうで、その作業をやっておいてくれるらしい。

 ちなみにだが今回の仕事での報酬は鉄貨7枚だった。Aで七枚、Bで五枚、Cで三枚らしい。大抵、問題を起こさず普通に仕事して午前中に終わればB。監督とのコミュニケーションが良好か、迅速に仕事を終えればAになる。ほぼAランクが望める仕事なのだそうだ。

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