3−3 最後の一撃

 人は悪になろうとして悪にならない。

 誰もが多少なりとも純粋さと正しさを持っている。


 だがその優劣で勝敗が決する様になると純粋さは時間と共にくすんでいき最後には利用しようと考える者が現れ始める。


 例えば『ストライク・ケイジ』も最初は『鳥籠を壊そう』と言う子供の様に純真な話から始まった。それが気が付けば悪の組織と呼ばれている。いつしか損得が価値基準としてすり替わり、その為の善悪へと変質していたのだ。


『――結局、俺達は……子供過ぎた。だから失敗した。自分達が変えるのではなく、皆と一緒に変わっていく事を考えるべきだった。俺達は、やり方を間違えた……』


 男は独り言ちる。ただ今は少年と共に再び話したい。

 この事件が全て片付けば最後に少し位は話せるだろうか――だがそんな男の儚い願いを遮る様に遥か彼方から激しいローター音を響かせながら飛んで来る物があった。爆音と共に現れたのはガンシップ――戦闘ヘリだ。

 それは真っ直ぐに飛んで来ると理科実験室の前でホバリングを始める。地上では地面が真っ赤に染まり酷い惨状だ。それが見えている筈なのにヘリは竜崎の方を向こうとしない。

 それで初めて男は己の迂闊さに気がついた。


――シンシアの身体に……マーカーが打ってあったのか!?


 捕らえられて実験に使われた白銀の娘の肉体には細工がされてあった。そして逃亡を許さない為に動脈部に火薬まで仕込まれていた。だがそれだけでは確実に葬る事は出来ない。


 ストライク・ケイジが持つ科学力、ナノマシン・テクノロジーは現段階で世界にある技術を遥かに凌駕している。その中でもシンシアのインプラントは医療用の側面が大きく下半身不随となった少女自身の筋肉や神経まで修復させた。そして方向性は違うものの同じ技術を有する竜崎阿久斗、『ブレイド・ラグーン』は恐るべき戦闘力を有している。


 例え『悪の組織』と言えどシンシアは人間で変身出来ない。人体実験や起爆装置が埋め込まれていたと世間が知れば大変な問題になる。となれば秘密裏に回収、もしくは抹消だ。


 竜崎達『エージェント』の肉体が死ねばナノマシンが全てを分解し無かった事に出来る。

 一度得た技術が他国に渡るのを阻止する目的もあるのかも知れない。

 国家とは損失を出す事よりも個人を抹消する事を選ぶ。大勢の人が生きる国を守る為ならばその代償が一個人であれば全てを背負わせて闇へと葬る。国の為に、大勢の人々の為に死んでくれ、と。


 男は剣を杖代わりにしてよろよろと立ち上がった。しかし既に竜崎自身満身創痍でとても四階にある理科実験室まで跳べるだけの力が残されていない。そしてあの場所にはまだ少年が――一ノ瀬マモルと清川ユイがいる。その生命を決して奪わせる訳には行かない。


 だがその眼前でホバリングする機体に取り付けられたガトリングが回転を始めた。このままではもう間に合わない。それで男は手に持った巨剣を逆手に持つと槍の様に構えた。


『――マテリアル・ブースト!』


 その声と共に巨剣の形状が槍の様に変化し始める。やがて男は残された渾身の力を右腕に込めるとホバリングするガンシップ目掛けて。


『――うおおおおッ、届けええええッ!!』


 全てを込めた最強の一撃が、空を舞う破壊者を目掛けて凄まじい勢いで撃ち出された。

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