第6話:挑発
「見事なダンスでしたわ、ブルードネル王太子殿下。
会場中の王侯貴族が見惚れるほど見事なダンスでございましたわ、殿下。
いつも以上に鼻の下が伸びられて、凛々しさが際立っておりましたわ、殿下。
偶然を装ってセシリア嬢の身体をまさぐる手が、殿下のお心の気高さを物語っておりましたわ、殿下。
それをうれしそうに受けているセシリア嬢の美しさも行動も、バカン伯爵家の家名を大いに高めてくれる事でしょう。
今日お集まりの皆様が、殿下のお噂を国内外に広めてくださる事でしょう」
「おのれ、おのれ、おのれ。
黙って聞いておれば好き放題言いおって。
たかだか公爵令嬢の分際で、私の悪口を言ってただっですむと思っているのか」
「あら、私が何かブルードネル王太子殿下の悪口を申しましたでしょうか。
私は殿下のダンスのお姿を正確に褒めさせたいただいただけなのですが。
それに公爵令嬢が殿下のダンスを褒めて懲罰を受けるようでは、侯爵以下の貴族達は殿下に何も話すことができなくなってしまいます。
まあ、殿下のお好きな下品なダンスへのお誘いや、佞臣共が口にする阿諛追従は話すことができるかもしれませんが」
バッチーン
「おのれ、おのれ、おのれ、もはや許さん。
破棄だ、破棄、お前との婚約は破棄する。
解消ではないぞ、破棄だ。
家名に泥を塗る破棄をしてやる。
いや、それだけでは私の腹の怒りが収まらん。
追放だ、追放、王国領から追放してやる。
今直ぐここから出ていけ!」
「婚約破棄、追放。
その前に言うべき事、やるべきことがあるのではありませんか。
ブルードネル王太子殿下」
「やかましいわ、そんなもの何がある。
私はこの国の王太子である。
不敬罪を犯した公爵令嬢ごときにいうべき事は、婚約破棄と追放だけだ」
「分かりました、よおく分かりました。
ではアースキン公爵家に恥をかかせたことに対して、詫びる気もなく、更に婚約を解消するのではなく破棄をして恥の上塗りをさせ、罪のない私を追放するというのですね」
「何を言っている、罪は余に対する不敬罪だ!」
「この場にいる全ての王侯貴族が証人となる前で、不敬罪だと言われるのですね。
同じ理由で今後も全ての王侯貴族が不敬罪にされるかもしれないという事ですね。
よく分かりました、ブルードネル王太子殿下。
これだけの王侯貴族の前で正当な理由もないのに殴られた事。
婚約を解消ではなく破棄だと言い放たれた事。
無実の罪で追放刑に処せられた事。
アースキン公爵家としてお受けしましょう。
次は戦場でお会いすることになるでしょう、ブルードネル」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます