婚約者に固執する必要などなかったのですね、私は自由に生きる事にします。

第5話：諫める

（しっかりして、父上の言葉を思い出して。

　クリステルは公爵令嬢なのよ、佞臣の挑発に乗るのは恥なのよ。

　見て、卑しい成り上がりのセシリアの言動を。

　あんな見え透いた挑発に乗せられたら、クリステルまで同程度の人間だと思われてしまうわよ、セシリアにバカにされるわよ、それでもいいの）

「……分かっているわよ！

　だったら私に何をしろというのよ。

　このまま放置していたら、私はセシリアにバカにされたままのなるわ。

　それでも何もせずに我慢していろというの。

　私はブルードネル王太子殿下の婚約者なのよ。

　その婚約者が、舞踏会で壁の花にされてずっと放置されているのよ。

　王太子殿下は最初から最後までずっとセシリアとだけ踊っているのよ。

　会場中の王侯貴族に憐れむような目で見られ続けているのよ。

　それに耐えで何もするなというの、それでも貴女は私の心なの！」

（バカ、今まで何を聞いていたの、クリステル、それでも公爵令嬢なの。

　父上にアレだけ説明されたのに、まだ分かってくれていなかったのね。

　では一から説明しするわね、いい、よく聞いてよ）

「……分かったわよ、聞くわよ、聞けばいいんでしょ」

（まず最初に、クリステルが拘っている王太子を見て。

　王侯貴族が注目しているなかでダンスをしているのに、鼻の下を伸ばして、偶然を装ってセシリアの身体をまさぐる王太子を見て。

　アレが好きなの。

　本当にアレが大好きなの。

　あれと一生を共にしたいと本気で思っているの。

　一生浮気を繰り返すのが目に見えているアレのお守りを死ぬまで続けたいの。

　さあ、答えて、クリステル！）

「……いや、よ、いやだわ、嫌だけど仕方がないじゃない。

　政略結婚は貴族の定めなのよ。

　公爵令嬢の私は、父上の定めた結婚を断る事などできないのよ」

（やっぱり昨日の話を聞いていなかったのね、クリステル。

　父上は心の声、私の言う通りにすればいいと言ってくれたじゃないの。

　少なくなくとも父上は無理にアレと結婚しろとは言わないわよ。

　それに、アレなら少し挑発すれば直ぐに婚約破棄だと言いだしてくれるわよ）

「え、でも、だって、昨日の話では王家王国を護るのでしょう。

　だったら私が王妃になって王家王国を護らなければいけないのじゃなくて」

（あのねぇ、よく考えなさいよ。

　王家に入っちゃったら敵地なのよ。

　たった一人で敵の謀略、毒殺から逃げきれると思っているの。

　侍女の多くが敵の手先なのよ、クリステルはそんな所で生きていけるの）

「……無理だわ、そんな事不可能よ」

（だから外から護るのよ、外から王家王国を護るの）

「本当にそんな方法があるの」

（あるわよ、だから私に任せなさい。

　それにもっと自信を持ちなさいクリステル。

　私もクリステルなんだから）