第5話

「ただいま〜」

「おにぃおかえり」


 帰るとだいたい妹の月葉が迎えてくれる。一応、中三なのだが、反抗期とかそういうのはない。むしろ癒しである。


「おにぃ」

「なんだ?」

「腹減った」

「……はい」


 うちには親がいない。両親、共に出張なのだ。しかも海外。なので飯は俺が、掃除洗濯は妹がやることになっている。とりあえず、即席でなにか作ろうかと思って冷蔵庫を開けると……


「なんもないやん……」


 我ながらアホである。昨日で使い切ったのを忘れてた。今から買いに行くしかない。


「ちょっと買い出しに行ってくる。何食いたい」

「なんでもいい……アイスないよ」

「ラムネでいいか?」

「ん」


 俺は月葉の要望を聞いて財布を持って家を飛び出す。閉店まではまだまだあるが、早いに越したことはないだろう。


 そう思って空を紅く染め上げてる太陽に向かってチャリを飛ばしていた。


「川井くん?」


 聞き覚えのある声が俺を呼んだ。こんなところでエンカウントするとは思ってもなかったが、よくよく考えたら別に不思議では無いのだ。学校からさほど離れているわけじゃないのだから。


「……神崎さん」

「いや、なんでちょっと嫌な顔したの!?」

「嫌な顔をしたつもりは一切ない。ただ、学校関係と会うとは思ってもなかったから」

「それもそうだね。で、何しよん?」

「ちょっと買い物」


 神崎さんがえ?って顔をする。相変わらず表情がコロコロしてるな。にしても、神崎さん、荷物が多い。部活の道具だろうか? 


「いや、買い物。食料を買いに行ってるの」

「一人暮らし?」

「いや、妹と2人」

「御両親は?」

「海外出張」

「へぇ〜」

「神崎さんはここで何しよん? どう見ても帰りよるよな。うん。忘れて」

「ふふっ」


 神崎さんが笑った! 世界に平和が訪れた……


 ゲームだとかなり強力なバフ効果がありそうな笑みだった。実際は俺が浄化されただけなのだが、十人見れば十人が尊死してしまうレベルだ。


「家、ここから近いの?」

「そうだな……二キロくらい向こうだ」


 二キロが近いと思う人も遠いと思う人もいるだろう。俺は神崎さんに判断を委ねた。


「およ? 私の家と意外と家が近いかもね」

「そうなのか? 知らなかった」


 まぁ、知るわけが無いか。高校入学のタイミングでこっちに引越したんだし。


「……そろそろ行かねえとな」

「あ、そっか。買い物しなきゃいけないもんね」

「おう。じゃあ、またあした」

「またね〜」


 神崎さんが歩き始める。俺は神崎さんの背中をボケェっと眺めた。気を取り直して買い出しに出発するまでにおよそ三分かかった。そして、何を買うつもりだったかど忘れした。月葉からどやされたのは言うまでもないだろう。


        〜あとがき〜


 ここまで読んでいただきありがとうございます!

 自分の作品をここまで読んでくれたあなたに最大限の感謝を。

 これからも続きます故、どうかよろしくお願いします!

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