未知の場所

 ノアたちが刀を持った男と対峙したころイチローたちはある港に来ていた。


《イチロー視点》


 俺の目の前にはコンテナがたくさん積まれた港がある。 いわゆる貿易港に来ている。

 ここに何があるというのだろう。 それを聞こうと近藤さんの方を向いたけれども近藤さんはいなかった。

 近藤さんは少し離れた倉庫の中をのぞいていた。


「近藤さんここに何があるんですか?」

「ここにか? さぁ? あるかもしれへんし、ないかもしれへん。 そんなところや」

「あるって何があるんですか」

「そんなもんきまっとるやろ」


 そう言われて少し考えて自分たちが何者なのか一つ思い出した。


「ここに魔導士たちの隠れ家があるというわけですか」

「そ、ここにもしかしたらあるかも程度やけどな」


 そう言われて少しだけホッとする。

 俺自身に戦う力はないに等しい。 これから、戦闘になれば必ず近藤さんの足を引っ張ってしまう。

 だから、少しだけ気が楽になった。


「一つ聞いてもいいですか?」

「先に言っとく、ここのどこかにはおるからな」

「えっ」


 声が出た。 思いっきり声が出た。

 さっきはいないかもって言っていたのに、先ほど言っていたことと違う。

 それを聞こうと思ったが、前に近藤さんは未来が見えると言っていた。 俺は冗談だと言ったけれどももしそれが本当のことならば、先ほど言っていることが違うのは、今の間に未来を見て、俺と近藤さんが魔導士たちと戦っている未来でも見えたということだろう。


「……わかりました。 俺は全力を尽くします」

「おう、それでええで。 今のお前じゃそれしか出来んしな」

 

 笑いながらそう言われた。 事実だとしてもかなり心に来る。 

 それをあいまいな笑みでしか返せない俺にも腹が立つ。 それをわかっていながら、ノアに頼り切っている俺が心底嫌いだ。


「気を負わんでええで、本来この任務は俺一人でやる予定やったからな」



 そう言われて、俺は脇にホールドされた。 視界がいきなり低くなったことに戸惑ってしまった。 その戸惑いが生んだ少しの時間のおかげで俺は助かった。

 そう思ったのは近藤さんが突然上に跳んだ時だった。 倉庫の外に架けられていた二階の通路に飛び乗ると同時にさっきまでいたところの倉庫の壁が消し飛んだ。


「ヒュ~、やっぱり先制攻撃だよな」

「何が起きたんですか!?」

「うんじゃ、お互いに生き残れるように頑張れよ!」

「えっ?」


 パリンッ! という音と共に浮遊感を一瞬感じたかと思えばすぐに落下していくのを肌で感じる。

 声をあげる暇もなく目の前に地面が迫るせめても受け身を取ろうと態勢を整える。  でも、受け身を取る必要なかった。 地面にぶつかる直前にふわっと上昇感と共にきれいに着地した。


「今のはなんだ? ってか、近藤さんこうなることわかっていたのかよぉ!」


 思わず叫んでしまった。 心の準備が出来ていない状況でいきなり倉庫の中に投げ入れられて、大怪我してもおかしくなかった。 それをわかっていたからの一言で済ましてほしくないと思う。


「てか、ここって倉庫の中だよな。 なんていうか、やばい研究しているみたいに見えんだよな」


 グルっと一周見回すとそこは外見からは分からない世界が広がっていた。

 よくSF映画とかである培養液みたいなのがあちこちにある。 これを見るだけで少し興奮してしまうがこれをどうすればいいかなんて聞いていない。 だから、ただ勘に任せて一緒に落ちてきていた鉄パイプで培養液のガラスを割った。

 もちろん割ったときにブーブーと侵入者を知らせる音が倉庫内に鳴り響く。

 培養液が外に漏れだしているのを見ながら、隠れられそうな物陰に隠れる。

 誰か確認しに来る、その時に俺の姿を見られると絶対に追われるから。

 物陰に息をひそめていると白い仮面をつけた男たちが来た。


「あぁ? なんで割られてんだ?」

「知るかよ、それより今は最重要研究をやつらに奪われる前に研究所の前で暴れてるやつを捕まえに行くぞ」

「そうだな。 こちらの最大戦力はで払っているからな。 ここで俺らがへまなんてできないからな」


 そう言うと男たちは元来た道を戻っていった。

 あいつらが言う研究所の前で暴れているのは近藤さんだよな。 あいつらの言った方向に向かえば近藤さんのもとにたどり着く。

 だったら、俺がすべきことは先に進むこと。 この先にあるであろう、研究について突き止める。


「全身が震えてる。 落ち着け、俺」


 無理矢理身体の震えを抑えるようにももを叩く。 これで震えが止まるというわけではないが、やらないよりかはマシだからやった。

 立ち上がり男たちが来た方向とは別の方向を走っていく、この先に何があるのかはわからないけれども、近藤さんが動くほどのものなのは目に見えている。

 もしかしたら、ノアぐらいの力がいるのかもしれない。 そんな中で近藤さんは俺を選んだ。 だから、もしこれがノアぐらいの力が必要だとしても俺にしかできない事があるということだ。


「期待されるのが怖くて、嬉しい。 変な気分だなぁ」


 そう口に出すと震えは止まった。 まだ、先は見えないがいつだれが来てもいいように鉄パイプをしっかりと握りしめる。

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