襲撃の知らせ
屋上に来てくれと言われてちょうど一週間がたった。 前回、屋上が開いていたのは学園長のおかげだったが、今回は俺と近藤さんの二人だけが屋上に来ていた。
「よぉ、元気にしてたか?」
「まるで何日もあってなかった感じですけど、会ってないの今日の朝だけですよね?」
昨日もおとといも顔を合わせた。 今日の朝は何か別のことをしていたようで学園にすらいなかった。 でも、今はここにいる。
「一郎、今から起こることを無視して俺と一緒についてきてくれよ」
意味が分からない、そう思いながらもうなずく。 近藤さんはごくたまに未来がわかっているかのような発言をする。
例えば、面倒な仕事を押し付けられる時には、いつの間にか消えていたり、この間は階段から落ちそうになる前に階段を駆け上って支えていた。 近藤さんが支えていなかったら、階段から落ちていた。
ノアは何となく近藤さんが何をしているのか分かったようだけれども、答えてはくれなかった。
「もしかして、未来でも見えるんですか?」
屋上の柵にもたれ掛かって俺はそう聞いた。
「もしそうならどうする?」
同じくもたれ掛かった近藤さんは俺のほうを向いてからかうように笑ってきた。
俺は、それを聞かれると弱い。 おれはどうしても未来を知って、それを回避するか利用するかその二択になってしまう。 それに、未来を知らないと行動できなくなってしまうかもしれないから俺は未来を見たいとは思わない。
だから、俺はこの答えには沈黙を選ぶ。 これが正解かどうかわからないけれども、俺は答えない。 おかしいとかではなくこれは俺の答えだ。
「沈黙か。 まぁ、ええわ、それがお前の答えなんやな」
俺が黙ったことで近藤さんは呆気にとられていた。 そのまま眼下のグラウンドを覗き込んだ時にそれは起きた。
ドゴォーーン!! そう爆発した音が聞こえた。 その爆発が起きた場所はこの学園の食堂だった。 あそこには今の時間、多数の生徒が食事のために利用している。
「こ、近藤さん! い、行かないと!!」
「慌てるな。 ここまで、大丈夫。 てなわけで、俺らはここはあの三人に任せて移動するぞ」
近藤さんに突然、襟元を掴まれて校舎の屋上から飛び降りた。
自然落下からくる風圧でしゃべることができない。 悲鳴も出ることがない。 もう少し体制を整えた状態での落下であれば悲鳴を上げることも可能であっただろうが、顔が上を向いているから全く声を出せない。
それ以上に、首が折れないようにするので精一杯になる。 バンジージャンプなどは跳び方指導などを行い、悲鳴が出せるようにしているがこれは違うため近藤さんに合わせるしかない。
しかも、合わせ方を間違えればあの世行きが決まるほどだから。
「フブッ!」
地面に着地したときに首が変な方向に曲がりかけた。 曲がりかけたけれども折れることはなかった。
そのまま、襟元を掴まれたまま、近藤さんは正門へ走り始めた。 てっきり、食堂に向かうものと思っていた俺は「え?」と口に出してしまった。
「あん? どうした?」
「ノア達の援護に入らないんですか?」
「あ~、そっちは大丈夫。 どちらかというと、これから行くところのほうが大切だから」
関係ないかのように言う近藤さんに連れられたまま、バイクに乗せられた。 いつの間にか用意していたのか、正門のすぐ横にはバイクが置いてあった。
♦
《ノア視点》
時間は少し戻り、授業が終わったあたりまでさかのぼる。
「ノアさん! 今日はどこでご飯を食べる?」
「今日は食堂でご飯を食べてくれって近藤に言われてるから。 食堂で食べる」
「お金はあるんですか?」
「近藤がくれた」
私は近藤からもらった千円札を冬に見せつけるようにヒラヒラと見せる。
それを見ていた澪ちゃんはため息を漏らす音がかすかに聞こえた。
「どうしたの? 澪ちゃん?」
「どうしたもこうしたもないわよ。 先輩、なんでこいつにお小遣いあげてることに呆れてただけ」
そう言った澪ちゃんの目には憎悪という感情が小さく灯っていた。 前ほどの強い憎悪は陰に隠れてしまっているが、それでもどこか私のことを目の敵にしている。
頭では敵ではないと分かっているけれども、それをうるさない感情が出てきていると言った感じだ。
憎悪が小さくなったきっかけは、同じ部屋で同じ時間を過ごすようになったのと、冬が私と澪ちゃんの間を取り持つようになったことが大きいだろう。
「私、食堂とか初めてだなぁ」
「へぇ~、前まで食事とかどうしてたの?」
「捕まえた動物を丸焼きにして食べてた」
動物(魔物も含む)だけれどもこの二人に言う必要はないかなと思う。 この二人には私が異世界から来たなんて言っていないから。
それに言う必要もない。 そう思いながらも、いつかは言わないといけないんだろうなぁと考える。
「ついたよ」
考え事をしていたらついた。 それと同じくしてこの食堂の外から魔力を感じる。
しかも、魔力が膨れ上がりつつある。 それを感じたときに私は杖を出して魔法を使っていた。 これから使われる魔法からここにいる人たち全員を守るために。
魔法が展開しきると同時に食堂の壁の一部が吹き飛んだ。
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