屋上の語り合い
《一郎視点》
近藤さんに言われて寮に入って次の日に学園の屋上にやってきていた。
「何してんの? 白石さんは」
「ん? イヒホーは」
箸を咥えながら、弁当を手にして振り返ってきたノアに「汚い」と一言言ってから座禅を組んでいる白石さんのほうを指さした。
「魔力の制御をより繊細にするための修業。 あと、冬はこっちに気が付いてないから」
「そうか」
そう言って俺はノアの隣に座った。 ノアの対面には菓子パンを食べている澪さんがいた。
澪さんは俺に気が付いたけれども無視していた。 わかっていたけれども、無視されるのは少しつらい。
寮で作ってきた弁当を広げて食べ始める。 まだ、屋上の中央で白石さんは座禅を組んでいた。
本来、屋上には来てはいけない場所なのだけれども、学園長が許可を出してくれたおかげで今ここにいる。
「で、近藤は?」
「午後の授業の準備してくるって」
「集めた本人がか……」
ノアは食べ終えた弁当の蓋を閉じながらそう言った。 俺は、弁当を食べながらここに来る前に近藤さんが言っていたことを思い出していた。
♦
「なぁ、イチロー」
「どうしたんですか?」
お茶を入れてくれと言われてお茶を入れている時に近藤さんにそう声をかけられた。
お茶を入れて、近藤さんの目の前に置いて、近藤さんの対面に座った。
「もし、俺が未来が見えると言ったらどうする?」
「え~っと、何を言っているのか分かりません」
「あはは、例えばの話だよ。 例えばのね」
そう言われて俺は少し考える。 どう答えればいいかわからなかった。
答えによっては近藤さんに笑われるような気がしたから、しっかりと考えて答える。
「俺は、ノアの未来を聞きたいです。 ノアがこの学園になじめるかどうかを知りたいです」
「そうか……。 やっぱり、それを聞くか」
少し嬉しそうにそう言った。
「これって何ですか?」
「ん? 俺が聞きたかったのと、忠告。 ノアちゃんは未来に忠実に進んどる。 それは、めっちゃすごい事やけど、もし、ほんまに自分で選ばんやぁいけん時に選べなくなる。 これ、めっちゃ大事なことな」
そう言いながら最後に「今は聞き流してもええけど、どこかに止めてくれればええ」と付け加えてきた。
その意味を探し出そうとしていても意味が分からない。 この答えは本当にその時が来ないと出てこないものだと確信してしまった。
♦
これが、ここに来る前に近藤さんと話したことだった。
「――おーい、聞いてるか? イチロー」
「……すまん、聞いてなかった」
「近藤が来たって言ってたんだ」
その言葉を聞いて目を屋上の入り口に向ける。 入り口には近藤さんが立っていた。
「すまん、すまん、遅れちまった」
「本当にそうだな」
そうノアと近藤との間にそのやり取りがあった。 ここの二人はノアと澪さんとは違う距離感がある。 澪さんとノアとの距離感を恨んだ相手同士とするのならば、近藤さんとノアの距離感はライバル同士に近いかもしれない。
「あ、そや。 冬和ちゃんの修業を終わらせてもらってもええかいな」
「あ、そうだった」
そう言って、ノアは白石さんに近づくとポンポンと肩を叩いた。 白石さんはよっぽど集中していたのか、肩を叩かれてものすごく驚いていた。
「ど、どうしたんですか!?」
「近藤が来たから終わり。 あとは、寮でやるよ」
「はい!」
そう言ったノアに快い返事をする冬和さん。 それを聞く俺たちにも元気を分けてくれるほどの明るさだった。
「ほな、話していこか」
そう言って屋上での話し合いが始まった。
「まず、柊学長からもらったもんやけど、今日から街の見回りいらんことになった。 というわけで、今日から各々好きに過ごしてもらう」
それから、軽めのこれからのことについての説明と、これから俺たちがどういったことをするのかなどの話をした。
「あ、そうだ。 これ最後に俺たちは特殊部隊兼遊撃部隊になった」
「それって何ですか?」
近藤さんの部隊の説明に質問したのは白石さんだった。 ノアはめんどくさそうな顔をしながらあくびを、澪さんはある程度話を聞いていたのか特に反応すらしていなかった。
その質問が来ると分かっていたのか近藤さんは笑みを浮かべた。
「言葉道理の意味や。 各々が最適だと思う行動をして、任務に当たる。 ほかには突然の任務に対応するって感じかな」
そう言った近藤さんは最後にやってみないとうまく機能するかどうかまだわからないけどねと付け加えた。
その言葉を最後に屋上での話し合いは終わりを迎えた。
そこに丁度良く昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「はい、学生のお前らはさっさと授業の準備をしにいけよ~」
「お前に言われなくてもやってるよ」
ノアは近藤さんに向けてそう言って、屋上を後にした。 屋上に残ったのは、俺と近藤さんだけ。 澪さんはノアと張り合うように出ていき、その後ろを乾いた笑みを見せながら白石さんが出て行った。
「近藤さんは行かないんですか?」
「あー、そだ。 イチロー、一週間後またここに来てくれないか?」
「え、いいですけど」
そう言って近藤さんは屋上から出て行った。
一人残った屋上で俺は夏が近づいてきているなと思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます