チームの決定

「あぁ、そうや。 もし、ノアちゃんの力になれるとするならどうしたい?」


 気にするなと言われた矢先にそう聞かれた。 俺はどうこたえるか少し迷った。

 これは本音を言えばいいのか近藤さんが好きそうな答えを言うのがいいのかで、迷った。


「俺は、ノアを守れるようになりたいです」


 俺がそう言うと大声で笑われた。 


「やっぱり、面白い」

「俺のどこがですか?」

「いや、こっちの話」


 クックッとお腹を押さえながらそう言われてしまった。 俺にはこの人の笑いのツボがわからない。

 突然、おかしくないことを言って笑いだすのだから。


「ほら、これをやるよ」


 笑い終えたかと思えば今度はこちらに向かって指輪の形をしたものを投げてきた。

 それを落としそうになりながらもキャッチした。 キャッチした指輪をまじまじと眺める。 どこかで見たことのあるような雰囲気を纏っている。


「これは何ですか?」


 俺一人では答えに至ることは出来ないと思った俺は近藤さんにそう聞いた。


「魔道具。 銘は『カーバンクル』。効果は知らないが、これは、お前さんが持っとくほうがいいと俺は思ったからやる」

「ちなみにこれって誰が作ったんですか?」

「西園ユメ《にしぞのゆめ》の工房にあったわけ」


 そう言われて胸がズキッと痛む。 ユメは何もしていない。 あの誘拐事件を起こしたのはユメの体を乗っ取っていたクレアである。 それを、ユメがやったかのように言われて俺のどこにも居場所がない攻撃的なものは俺自身を攻撃した。


「ほな、そういうわけやから行くぞ」

「へ?」


 胸の痛みを押さえつけるために胸を優しくなでている時に不意に声をかけられて素っ頓狂な声が出てきた。


「へ? じゃない、ここは学校。 勉強に行くの」

「……わかりました」


 少し、考えたけれども近藤さんが言いたいことはすぐに出てきた。 つまり、これから授業だからついてこいということだろう。



 近藤さんが受け持っていた授業が終わり、社会科準備室に戻ってきていた。

 近藤さんの授業は関西弁でするのかと思っていたけど、標準語で行われていた。 

 多分だけど、近藤さんは使い分けているのだと思う。 大切な何かを忘れないために関西弁を使っている。 だから、たまにしゃべり方が元に戻るのかもしれない。


「いや~、めっちゃ疲れたわ~。 ほんま、授業は一日一回がええわ」

「そんなこと言わずに、あと午後の授業一回で終わりですよ」

「せやけど、もう午前で二回もしたんやで、もうせんでええやろ」


 準備室に戻ってきてからはずっとこれだ。 今日の授業は申したくないと言ってくる。 それを俺はどうにかしていってもらおうとこうしてなだめているのだけれども意味がない。


「失礼するわよ」


 ノックの音もなく、突然声がして声がしたほうに振り替えると柊学園長がいた。


「なんや、どないしたん?」

「放課後、ノアさん、白石さん、双葉さんを呼び出しておくように」

「は? なんでまた三人を……ってまさか」

「そのまさかですよ」


 柊学園長がそう言うと近藤さんは深いため息をついて、座っている椅子により一層深く座り込んだ。

 それを見た柊学園長は「頼みましたよ」と言って出て行った。


「はぁ~、ホンマにいややで、このままじゃあかん言うたのに」

「何がいけないんですか?」

「お前さんにゃ、関係ない事や」


 そう言って近藤さんはフラフラと準備室から出て行った。

 本来なら俺もついていったほうがいいのかもしれないけども、今回は何となくついていかないほうがいいと思った。



 そうこうしているうちにあっという間に放課後を迎えた。

 俺は今、近藤さんに言われるがまま学園長室にいる。 もちろん俺と近藤さんだけではなくノアと白石さん、双葉澪ふたばみおさんもいる。

 このメンバーが呼ばれただけで空気が重たい。 俺とノアを睨んでいる澪さんだけど、澪さんが俺とノアを目の敵にしている理由を知れば、どうしても申し訳なく思ってしまう。 その睨んでいる澪さんをなだめているのは白石さんだった。

 その、澪さんに睨まれているノアだけど、どこ吹く風で興味なさそうに部屋に置いてある調度品を見ていた。

 近藤さんは呼んだ本人である柊学園長がいないことに少しいら立っているようだった。


「遅れてすみません」


 そう頭を下げる柊学園長。 そのまま、こちらに何かを言わせることなく、プリントを人数分配る。

 そのプリントには数人の個人情報載せられていた。 


「これは何ですか?」

「つい最近まで起きていた誘拐事件にかかわっていた魔導士です」

「ふ~ん、あれは一人の魔導士の単独行動かと思たけど、複数人でやってたんだ」


 面白くなさそうにぼやくノア。 それを見て俺はため息を漏らす。


「ええ、そうです。 そこで、ここにいる五人でここに乗っている人たちの近況の調査と捕縛の任務を授けます」

「ちょっと待ってください!」

「どうしましたか? 双葉さん」

「どうして、この魔導士と一緒なのよ!」


 声を荒げて言う澪さん。 澪さんの言い分はわかる。 澪さんは俺とノアのことを信じ切っていない。 というより、敵だと思っている。


「これは決定したことです。 異論は認めません」


 こうして空気の重たいメンバーが決まった。

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