転入のあいさつ
私たちはその後、代り映えする会話をすることなく、学園についた。
学園の正門を潜るときに何かを潜る感覚があった。
結界? しかもこれは侵入を防ぐための結界。 前の結界とは違う結界、というよりかはこっちの結界が本来の結界なんだろうな。
「なんか変な感じがする」
そう呟いたのは冬だった。 冬も魔力を持っているから、結界を潜った感覚があったのだろう。 それを変な感じと言う冬にクスッと笑う。 冬の感覚は私とは違っていて新しいものを感じさせてくれる。
♦
私と冬はそのまま教室に連れていかれることなく、一度職員室に連れていかれた。
職員室には先に家を出ていたイチローがメモ帳に何か書きながら近藤の話を聞いていた。
特に不思議なことはない。 元々、近藤の補佐としてここにいるのだから特に思うことはないのだけれども、なぜかモヤモヤする。
「え~っと、失礼します」
「おぉ、やっと来たかいな。 澪ちゃんに何かされんかったかいな」
「特に何も」
私の声に気が付いた近藤がこちらにやってきた。 近藤はこちらを心配するように言ってくるが、私は不躾に返事を返す。
私の返事が想像通りだったのか、呆れたような声を出す近藤。
「ん、まぁええやろ。 ノアと冬和が行くのは2年4組の教室。 あ~っと、千堂せんせ~」
職員室内を見渡して目的の人物がいないのか、職員室の隣の部屋に届きそうな声でそう言った。
その声が届いたのか、隣の部屋からメガネをかけたやせ型の男が出てきた。
「なんですか、近藤先生」
「この千堂先生が二人の担任。 持ち教科は現代文。 というわけであとは頼みましたよ、千堂先生」
千堂先生と呼ばれた男の背中を叩いて、イチローのいる場所まで戻っていった。
「え~っと、とりあえず。 教室に行きましょうか。 時間も時間ですし」
「はい、分かりました」
千堂先生の言葉に返事したのは冬。 私はこの男から匂う臭さに返事ができなかった。 冬は気が付いていないみたいだから、ある程度魔力を操れるようにならないと匂わないようだけれども、これに近藤が気が付かないとすると、もう一つ違う要因があるのかもしれない。
さすがに、あからさまに鼻をつまんだりすることはしないが、これは本格的に鼻が曲がりそうになる。
「ここが教室ね。 私が呼んだら入ってきてくださいね」
そう言うと一足先に中に入っていく千堂先生。 私と冬の二人は教室の前の廊下で待たされている。
そこから少しの間、静かな時間が流れて再びざわざわと騒がしくなった。
「入ってきて」
その声が扉越しに聞こえたので扉を開けて中に入る。 私と冬が中に入るとざわざわとしていた教室内がワッ! とうるさくなった。 主に男子が。
「はい、静かに。 ……はい、それでは静かになったので、まずは白石さんから」
「はい、白石冬和です。 前の学校からは一身上の都合で転入することになりました」
そう言った後に丁寧にお辞儀をする冬。 それはやったほうがいいものなのか気になるが、私は私なりのあいさつをしたほうがいいと思う。
「私は丹内乃愛。 魔導士だ」
そう言うと、騒がしかった教室が一瞬にして凍り付いたかよのように静かになった。
例外を除いて、ほとんどの人間が触れてはいけないものに触るような表情に変わっていた。
例外である澪ちゃんは驚いていた。 あれほど言うなと言ったことを言ったことに驚いていることは明白だった。 ただ、近藤からは自分が好きなようにすればいいと前に会った時に言われているからそう言っただけだが、ここまで空気が凍るとは思っていなかった。
♦
《一郎視点》
「ハッハッハッ、ホンマに言いおった。 これは、おもろいことなるで」
と、近藤さんが笑っていた。 近藤さんがコーヒー淹れてくれないと言われたから隣の職員室からコーヒーを入れて戻ってきたらこれだ。 ちなみにここは近藤さんの担当科目である社会科の準備室と名目上はなっている。
「近藤さん何かあったのですか?」
「ん~、おもろい事ノアちゃんがやってくれたな~って思うとった」
は? となるノアが面白いことをした? 何のことかがわからない。 ノアが何かするわけない。 俺はそう信じている。
「あぁ~、特に問題はないけど、ノアちゃんはほかの人らぁからは腫物扱いされるだろうな」
「どうして?」
素で聞いていた。 あっ、と思った時にはもう遅かった俺の声を聞いた近藤さんは面白そうに弧を描く笑みを浮かべていた。
「なぁ、一郎さんや、俺は一番最初にここの事なんて言った?」
「魔導士を嫌う……ってまさか!」
「そのまさか。 ノアちゃん、魔導士であることをばらしてもうてん。 これもう、言い逃れできへんで」
そう笑いながら言うけれども、ふと思う。
この人はどうしてノアそう言ったことがわかるのかという疑問が浮かんでくる。
「澪ちゃんに通話を繋いでもらって教室で何が起こっているか聞いてんの」
こっちを向いた近藤さんの目を見て、ゾワリと鳥肌が立った。
近藤さんの目が猫のように瞳が縦になっていたからだ。 その目で見られると、すべてを見られているような錯覚に襲われる。
「なんですか、それ……」
恐る恐る聞いた。
「気にせんでええよ」
そう言った近藤さんの目は元に戻っていた。
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