就職のお話

 ここまでの結果は大体予想は出来ていたけれども、まさか澪ちゃんが一人でここまで耐えているとは思わなかった。 

 私の予想では誰かひとり、澪ちゃんとは違う誰かがゴーレムと戦っていると思っていたが、澪ちゃんだとは思わなかった。


「澪ちゃん、この人たちは敵じゃないよ」

「な、何を言うんですか! 先輩!」


 澪ちゃんと近藤の問答を聞きながらゴーレムを土に還す。

 その間も澪ちゃんと近藤は言い合いをしていた。


「ノア、大丈夫だったか?」

「大丈夫、大丈夫」


 イチローにそう言われる。 私的にはイチローたちのほうが心配になるけれども、今はそれを言っている暇はない。 近藤との話をしないといけない。


「近藤、これからどうする」

「あぁ、とりあえずこの住所まで明日来てくれへんか」

「わかった」


 近藤から紙を受け取って、私たちは帰ることにした。

 帰ろうとしたら澪ちゃんが襲い掛かってきたのを近藤が地面に押さえつけていた。



《一郎視点》

 

 次の日

 昨日、俺は弱いことを再認識させられた。 このままだと一生ノアの足手まといになってしまう。 それだけは嫌だ。


「行こう」

「そうだな」


 そう言われて俺とノアは出る。 昨日、ノアが近藤と呼ばれるエセ関西弁をしゃべる、というか、時々関西弁じゃなくなってるけど、その人にもらった住所は都内だった。

 駅で冬和さんと待ち合わせをして、それから電車で都内まで行く。


「お待たせしました」

「いいよ、全然待ってないから」


 俺とノアが駅について5分ぐらいで冬和さんが来た。 三人で電車に揺られながら、一人考え事をする。 

 それはあり得ない考え事、子供が考えるような考えが頭に浮かぶ。

 ここ最近、ずっとこれだ。 大事なことを考えようとするとなぜか子供が考えるようなという考えが浮かんでしまう。 今までに出会った中で俺のほうが強いと言えるようなことがあったか? 喧嘩は海に負けるし、頭脳ではユメに負ける。 足の速さも負けている。 唯一勝てる跳躍力も何かの役に立てたか? そう考えてしまう。 何か、役に立てたはずだ。 そう思ってしまうが、思い出せない。 なぜかわからないが思い出そうとすればするほど、ノイズがかかって思い出せなくなっている。

 こんなことは一度もなかった、こんなことになるのはクレアに刺されてからだと思う。 それから俺はなにかがおかしい。


「どうかしたか?」


 深刻そうな顔になっている俺を見てそう言ったのだろう。 俺は口を開く、今の俺のことをでも、口を開きかけて閉じる。


「大丈夫だ」

「あ、そう」


 そう言うとこちらに興味をなくしたように冬和さんと話し始めた。

 言わなきゃいけないのだろうけど、これを言ってノアの重しにはしたくない。

 この問題は俺の問題だ。 このぐらいは俺が俺自身の力で解決しないといけないことだと感じている。 それに、少しはノアの力を借りることなく解決したい。

 冬和さんが攫われた時もノアがいなかったら、俺はずっと一人で冬和さんを探していたと思う。

 あぁ、本当に俺はノアにおんぶにだっこ状態から抜け出したい。




 電車におよそ一時間ほど揺られながら近藤に渡された紙道理の住所にやってきた。

 そこは、都内有数の国立高校である『楽郭学園らくがくがくえん』だった。


「ここで会ってるよな?」


 そう独り言として呟く。 もう一度、近藤に渡された紙を見る。 そこには確かにここの住所が書かれていた。


「やっぱりここだな」


 そう言って正門をくぐる。 それと同時に何か別のものを潜った感覚があった。


「は~、これはやりすぎでしょ」

「ですね」


 二人には何があったかわかったようだが、俺にはわからない。 何があるのか、俺には見えない。


「イチローは先に行っていいよ。 これは、魔力を持つものに反応するから」

「わ、分かった。 でも、お前らも気をつけろよ」


 そう言って俺は先に行く。 ノア達の目の前に何があるかわからないけれども、俺は先に進めるようなので先に行く。

 正門を潜るとすぐにグラウンドがあり、校舎に向かって歩きグラウンドから出るときにもう一度何かを潜る感覚があった。


「お、あんさんが最初かいな」

「エセ関西弁の」

「そうや、近藤利八よろしくな」


 そう言いながら近藤は右手で握手を求めてくる。 その右手を俺は払いのける。

 

「なんや、嫌われてんのかいな」

「俺が会社をクビになったのはあんたたちが原因なんだろ?」

「まぁ、俺っていうより上だな」


 そう言うと俺の後ろのほうを近藤は見る。


「来たか」

「来たかじゃない。 なんで、わざわざ結界を張る意味があった」


 グランドから出てきたのはノアと冬和さんだった。 


「グランドに結界張って試してたってことでしょ。 どれだけの速さでこの結界を突破できるかって、それにこれは、魔力を持つものにしかわからないし、魔力を持つもしか封じ込めないでしょ?」

「正解。 これで、上の連中を説得できるってもんよ」


 そう言うとついてきなと言って近藤は校舎の中へと入っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る