王の魔法

 神を信じるか? だって? その答えは決まっている。 私の答えは決まっているものだった。


「信じてる」


 私はそう答えた。 

 その答えが聞きたかったかのように笑う近藤を見ながら私は杖を構える。

 近藤が何をしてこようが私には関係ない。 魔力が完全に回復している私は近藤には負けない。


「俺が使える魔法は二つだけ、それ以外の魔法は使うことすらできない。 だから、この二つの魔法は破ることは出来ない」

「そうか、それならこい」


 そう言って私は構えていた杖を下ろす。 近藤が破れないというのならば、私はその魔法を破る。

 それを受ける。


「その心意気買った」


 腰あたりから杖を出してきた。 どこかに杖を隠しているとは思っていたけれども腰に隠しているとは思わなかった。

 杖を私に向けて構える。


『絶対なるグライスル・ラグナ


 そう唱えた。 聞いたことのない式句。 私の世界にはない魔法ということになる。

 その魔法が発動するための陣が展開される、地面に。

 

「なっ!?」


 攻撃系統化と思っていたが結界系の魔法とは思わなかった。 確かに、これなら破られにくい。 私を結界内に隔離すれば、かなりの時間を稼げる。

 その間にもう一つの魔法を展開すれば負けるかもしれない。

  陣を中心に結界が構成されていく。 その結界は幻想的なつくりを創り出していた。



 出来上がった結界は神殿と洋風の城を足したような作りになっていた。 

 私が立っている場所から赤いカーペットが広がった先に階段がありその上に王座になっていた。


「自分と相手を閉じ込める結界か……」


 そう呟いた。 奥の王座には足を組んでひじ掛けに頬杖をしている近藤がいた。

 それは、この結界の王であるということを示しているようだった。

 

「『跪け』」


 近藤の声が何かの声に重なって聞こえる。 その声はどこかで聞いたことのあるような声だった。 

 誰だったけ? この声、なぜか意識が朦朧として思い出せない。

 

『跪け』

「あぁ」


 聞いたことのあるはずだ。 この声の正体はケレス様なのだから。

 三対の翼と天使を彷彿とさせる頭の上の輪っかそれは女神ケレス様であることを証明するものだ。

 跪け、それを聞いただけで私は跪いていた。 私にとって師匠がいなくなって、私が敬愛する存在なのだから。 私はこのお方の言葉であるならばその言葉を受け入れる。


『大儀である』


 その言葉だけで涙があふれてくる。 その言葉だけで報われる。

 私はそのままケレス様のひざ元で跪いている。

 でも、一つ何かがおかしいそれを私はいらないものとして考えから消した。

 今はただ、目の前に降臨なされたケレス様のことをこの目に焼き付けることで忙しいのだ。


『貴様の負けだ』


 負け? 私はケレス様と戦っていた? そんなことはない。 私がケレス様に戦いを挑むことなんてありえない。

 ケレス様に戦いを挑んだのはあいつだけだ。 歴史上、いや、人が人として生き始める前よりその時だけだ。 あいつがケレス様に戦いを挑んだそれだけ。


「私は、何と戦っていたのでしょうか?」


 何かと戦っている。 それだけは覚えているが今はもう関係ない。

 これを、ケレス様に言うこと自体がおこがましいと思ってしまうがつい聞いてしまう。

 この言葉を口にすると先ほど考えから消したはずであった、何かがおかしいその違和感が先ほどよりも大きくなって戻ってきていた。

 その違和感を捨てようとすればするほど、その違和感は膨らんでいく。

 目の前に座っているケレス様は本物ではないと。

 それは違う。 目の前にいるのがケレス様だ。


『本当に?』

「うるさい黙れ……」


 この世界に来てからか、封印が緩んできてる。 聞きたくない声を聞いてしまった。

 それに、今の声で私にかけられていた魔法も解けてしまった。 あいつの言葉で私は正気に戻った。

 ついさっきまで、ケレス様に見えていた存在は近藤に戻っていた。

 それを見ると殺したくなる。 ケレス様と偽ったこととこいつの目の前で泣いたことを隠蔽したい。


『どうした?』


 あぁ、声はケレス様だが、根本的に違うと分かってしまう。 この魔法の欠点は一度正気に戻ると二度とかからないようだ。


「どうした? じゃねぇよ!」


 強化した拳で近藤の顔面を殴る。 ジャンプして殴ったから絶妙に力が上方向に逃げて殺すほどの威力ではなかったものの、かなり痛い一撃になったはずだ。


「これもきかんのかいな」

「残念だったな」


 フンっとどや顔でいってやる。 途中まで完璧に決まっていたけれども、それは黙っておくに限る。


「あ~ぁ、負けた」

「私は破ったぞ」

「破ってないで? この魔法は結界魔法と幻覚魔法が合わさったもんやから、まだ破れてへんで?」

「は?」

「まぁ、あとでそこらへん説明したる」


 そう言って起き上がると魔法を解いた。

 あのまま戦っていれば負けることはなかったが、結界から出ることは出来なかっただろう。 つまり、千日手だった。

 それをわかったうえで近藤は結界を解いたのだろう。


「そろそろ、向こうも終わっとるやろ」


 そう言うと私が連れてこられた道を歩いて行った。


「あぁ、そうや。 うちの組織に来な」

「はぁ~、分かった」

「おし、これで敵対する必要はなくなったわけや」


 そう言って先ほど来た道を戻り、イチローたちがいるところに出るとゴーレムと澪ちゃんが戦っていた。

 ほかの人たちはゴーレムに倒されていて、澪ちゃんたった一人で。

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