監視の出方

 何をしていたか、そう聞かれて笑いそうになるのをこらえる。

 ずっと見ていたのにそれを聞いてくることがおかしい。


「ずっと見てたのにそれを聞くんだね」


 一人、前に出てきた男にそれを聞く。 近くには、この前襲ってきた二人もいるようだけれども、こちらの様子をうかがっているようだった。


「あ、そうだ。 私たちはラビュトスとは関係ないよ」


 そう言うと男の表情が変わる。 これは地雷を踏んだな。

 男は右腕を上げて前に振った。 何かの合図だったようで、今まで隠れていた人たちがぞろぞろと出てきた。


「澪ちゃん!」


 その声を上げたのは冬だった。


「知り合い?」


 そう言いながら出てきた一人を吹き飛ばす。 


「幼馴染です。 10年前突然転校してそれから一度もあってなかったですけど」

「そうか」


 そう言ってゴーレムを4体作り出す。 対象は冬とイチロー以外、それと、殺さないように加減させる。

 それの隙に澪ちゃんの前に迫り、眠らせて冬の前に戻る。

 

「一応、そのこと私は敵対してるから、見といて」

「えっ……わかりました」


 そう言うと今度は私が狙われる番だった。 

 それは突然迫っていた。 澪ちゃんを冬に預けてさらにゴーレム3体ほど増やして        

 一気にケリをつけようとしたときにそれはきた。



「はっ?」


 かわすこともさせてくれなかった。 目の前に迫っていた手を受けてしまった。

 そのまま、顔を掴まれたまま森の奥に連れていかれる。


「ガァッ!」


 そのまま地面に叩きつけられて声が漏れる。

 受け身が取れなかったけれども、最短で態勢を整える。


「お前は……」

「久しぶりやなぁ」


 変な日本語をしゃべる男がいた。 この前の襲撃にいた男だった。

 この男がわざわざ、あの部隊から私を離したのは何か理由があるのだろうけど、こっちのほうが私もやりやすい。


「向こうは大丈夫なの?」

「大丈夫やろ、嬢ちゃん。 わざわざ、あのゴーレムを殺さんようにしてくれてたし」


 気づかれていた。 しかも、あの部隊はゴーレムに負けるとも言っていると同意義だった。

 私はこの男に勝てないというわけではないだろうけれども、この男はクレアよりも強い。 それはわかっている。


「あぁ、そうや。 俺は近近藤利八こんどうとしやちゅうもんや」

「いきなりどうした?」

「この前、名乗り忘れとったからな」


 利八と名乗った男はグローブのついた両手をゴキゴキと鳴らす。

 それが戦闘開始のゴングのように同時に動き始めた。

 私は最速の魔法である風砲エアを利八に向けて放つ。 利八はそれをかわすことができないと悟ったのか拳で風砲を迎撃する。

 風砲を殴ったことで風砲が爆発し、目をつぶってしまうほどの風が利八を襲う。

 そのできた隙に合わせるように殴りを入れる。 だが、それを勘だけで受け止められてしまう。 常人が魔力で身体強化している拳を受け止めれば骨が砕けるじゃすまないかもしれない威力が込められているがそれを難なく受け止める。


「いったいなぁ」

「バケモンが」


 そう言い放ち、掴まれた拳を振りほどくために顎を狙った蹴り上げを打つ。

 それを、顎先数ミリというところでかわし切った。

 かわしたタイミングで拳を掴んでいた手の力が緩んだのを見逃さずに振りほどきステップで距離をとる。

 完全に裏をかいた攻撃、相手の虚を突いた攻撃をことごとくかわされて気分がいいわけがない。 それ以上に未来でも見えているのではないのかと疑ってしまうほどに読みが正確なのだろう。


「今のは危なかったなぁ」


 そう飄々と言われると癪に障る。 魔法を使えばいいのかもしれないが、中途半端な魔法は避けられたり、弾かれたりするから大したダメージ手段にはならない。

 できても目くらましか、足止めぐらいにしかならないだろう。


「それじゃあ、こっちから行こうか」


 殺気を感じた。 私が感じられたのはそれだけだった。 気がつけば私は木に叩きつけられていた。 それに気が付くと同時に襲ってくる殴られたという痛みと衝撃それに思わず苦痛の表情を浮かべる。

 だが、痛みに呆けている場合ではない。 追撃に備えて逃げなければならない。


『風砲』


 風砲を同時に10個ほど放つ。 それが一つでも弾けば、時間稼ぎには充分になる。

 それをこっちの思惑道理に弾く利八。 


『這いよる閃雷ラ・クルルリア


 できた隙に風砲よりかは遅いがそれでもこの魔法を見てかわすことができない速さを持っている。

 これは、風砲と違い触ること自体が危険が魔法。 それを弾くのは無理だ。

 『這いよる閃雷』は規格外の利八でも弾くことができなかった。 『這いよる閃雷』を食らった利八はこれで戦闘不能になるものと思っていたが、耐えきっていた。


「やっぱり、バケモンだ」

「それは違うかな」


 そうやんわりと否定された。 私の中ではこいつはもうバケモノ認定された。 でも、こいつから感じるものはこの世界にきて二度目だった。


「お前、魔導士だろ」


 私はそう言った。 ほとんど、確信に近い問いだ。

 その問いに帰ってきたのは微笑み。 いや、気色悪い笑みだった。


「なぁ、お前は神を信じているか?」


 利八はそう言った。

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