記憶の範囲

 俺は思い切ったことを聞いた。 こういう、世界的に隠蔽されていたものは知られると記憶操作ですべてを忘れさせられるというのがセオリーだと思う。

 でも、今の冬和さんを見ていると記憶を消されている風には全く見えない。


「ん~、どこまでって言われても、一応ぜんぶかな?」


 そう言われても全部がどこまでなのかわからない。

 ノアは、少し考えるようにして冬和さんにもう一つ聞いた。


「クレアについては何かわかる?」

「クレアが誰かわからないけど、なんか、私の体が勝手に動いてるのを見てたよ」

「あぁ」


 それで、ノアは苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

 ノアから聞いた話では冬和さんの体を乗っ取ったクレアを一方的にボコボコにしていたと聞いていたし、俺を刺したの同じだと言っていた。

 そこまで覚えられているのはノアからしても俺からしても少し、覚えておいてほしいものではない。


「ん~、まぁそこまで覚えてるものを今から消そうなんて思わないし、覚えてるんだったら覚えて困ることでもないからいいか」


 そう諦めたように言ったノアは一回ため息をついた。

 それから、ロフトの梯子に手をかけてこちらを見た。


「ついてこい、二人に渡すものがある」


 そう言って上りだしたノアについていくように上った。 そこは、俺が知っているロフトではなかった。

 2畳ほどの広さで荷物置き場になっていた場所を無理やり開けてノアが眠れるようにしていただけの場所がなぜか、広さ10畳はありそうな部屋に様変わりしていた。


「なんだよこれ」

「魔導士の工房。 イチローも見たことあるでしょ、クレアの工房を」

「あの洞窟のことか?」

「そうだ」


 そう言われて驚く。 あの地下に3平方キロメートルほどはありそうな洞窟丸々一つが魔導士の工房だとは思えなかった。

 そもそも、地下にあの広さの洞窟があることも不思議だし、ロフトの広さも変わっていること自体も不思議だ。


「そもそも、魔導士の工房は設置型の魔法で異空間を作って空間を広げているから見た広さと入った広さはイコールじゃないから」


そう言ったノアはこの異空間に置いてあったタンスの中から、ペンダントとブレスレットを取り出してきた。


「これは?」

「魔道具。 防御に振った強い魔道具。 位置情報も教えてくれるからもし、誘拐されてもすぐに助けに行ける。 効果は説明するよりも体験してもらったほうがいい」


 そう言うとペンダントを冬和さんに、ブレスレットを俺に渡してきた。

 俺はそのペンダントをつけると青い光をはなった。


「この光はなんだ?」

「所有者と認めた証。 それはもうイチロー以外には効果を発揮しないよ」


 そう言うと冬和さんにもつけるように催促する。

 冬和さんも同じように身に着けると青く光るこれで冬和さんも所有者と認められたようだった。


「さて、これで今渡すものはないかな。 あとは、伝えることもないね」


 そう言ってノアは一足先に梯子を伝って降りて行った。

 それを見て入り口だけは変わらないんだなと思った。


「それじゃあ、家の近くまで送るよ」

「私もついていく」


 まさか、ノアがそう言うとは思わなかった。 冬和さんが帰ったのを見るとすぐに上に上がっていくものだと思っていた。


「私は白石の友達設定なんだから当たり前だろ」


 そう言うと靴を履いて冬和さんと一緒に外に出て行った。

 それを見て俺はなんだかんだ言って素直じゃないなと思った。


《ノア視点》


 一応、白石の魔力というより魔導士としての素質は私以上にあると思うけど、それは数百年先の話になるかもしれないし、その前に私が死ぬかもしれないと私は思っている。

 ただそれだけでも、私は白石のことを高く評価しているし、私の手で白石を魔導士に育て上げてみたいとも思っている。

 イチローの前ではそんなこと死んでも言わないと思うけど。


「ねぇ、私のもとで魔法の修業しない?」

「えっ!? と、突然だね」


 急すぎたかすごく焦っているように思える。 伝えるのが速すぎたかなと思いつつも考えといてね。 と言った。

 

「よし、行こうか」


 絵ずらだけ見ると事案のように見えるけれどももう昼前になっている。 イチローは家に送るついでに今日の晩御飯を買うつもりでいるのだと思う。

 

「家はどこ?」

「えっと、ここの十字路を右に曲がって踏切を渡ったところです」

「結構近いな。 アパートからそこまで離れてないな」


 そう言ったイチローと私は踏切を渡ったところまでついていき、踏切を渡ったところで別れた。


「さてと、ノア。 今晩は何が食べたい?」

「一番初めに食べたやつ」

「ナポリタンか。 いいぞ」


 そう言って私たちはスーパーで買い物をして家に帰った。

 スーパーに行く前にいろいろと寄り道をしたから今はもう夕方。 これ以上遅くなると本格的に警察を呼ばれそうになるため帰宅した。

 家に帰ってすぐにイチローはナポリタンを作り始めた。 リビングのほうを見ていないうちに一つまた一つと回収して普通のロフトに上がった。


「また、監視カメラと盗聴器が置かれてる……」


 ここ10日間ほど監視されているのがわかったため、常に外出していた。 そのたびにいろいろなものを取り付けられている。

 今日はわざと白石を呼んだ。 これで向こうは私たちに接触せざる負えなくなったはずだ。

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