結末とこれからも
《一郎視点》
目が覚めるとものすごく機嫌が悪いノアがいた。
俺は刺されてすぐに気を失ったから、それからのことを知らないが、何かあったことは明白だ。
「何か、あったのか?」
少し体を起こして俺はノアにそう言った。
ノアは俺が起きていることに気づいていなかったようで、俺が声をかけたことに驚いた。
だが、その驚きはすぐに消えて、自分に何かあったことがばれているのを隠すように顔を揉んだ。
「それをやっても意味はーーっとと」
立ち上がろうとすると、立ち眩みが起こり倒れそうになる。
それを危ないと言って、ノアが支えてくれた。
「今のイチローは血が足りてないんだから。 立ち上がろうとしたらダメ」
そう言って座らされる。 そこで、俺はもう一度「何かあったのか?」と聞きいた。
そう言うと、今度は唸りながら答えてくれた。
「会いたくないやつにあった」
そう言われて俺は思わず笑ってしまった。 本当はいけないのだろうけど、つい笑ってしまった。
「な、なんで笑うの」
「ごめん、ごめん。 俺は会社に行けば会いたくない奴なんて1人や2人いるからさ」
そう謝りながら言った。 でも、ノアの言う会いたくないやつっていうの憎んでいるに近いと思う。
だから、俺の言っていることはノアにはわからないと思う。
「それで、結局どうなったんだ?」
「とりあえず、倒した。 不本意だけど、私たちはここから逃げたほうがいいと思う」
ノアの言うとおりにしたほうがいい。 ここは、魔術師の根城、俺のような素人が口を出していい場所ではない。
そこまで考えて俺は、ここにもう1人いることを思い出した。
「冬和さんは?」
「……あそこで倒れてる。 でも、彼女は置いていく」
それに俺は反論しそうになったが、口を抑えられて何もう言えなくなった。
ただ、モガモガと口が動くだけだった。
「あの子は元からここにいた。 私たちが不用意に連れ出すと、私たちが犯人にされる」
そう言われ俺は何も言えなくなった。 確かに、俺が不用意に何かを起こして俺たちが犯人にされるようなことになれば、俺とノアの身に危険が及んでしまう。
「わかった」
そうして俺は少し罪悪感に苛まれながらここを後にした。
♦
それから数時間後の間海の家近くで時間をつぶすことになり、公園でボーッとしていた。
昼も近くお腹も空いているが、食欲が一つもわかない。 それよりも、何か食べ物を口にすれば吐きそうになると半ば確信していた。
持ってきていた財布や荷物は、海の家のリビングに置いてあり、それを持って家を出た。 その荷物はノアが持っていて「腹減った」と言って昼ご飯を食べに行った。
「あぁ~、気分が悪い……」
ベンチにもたれ掛かって俺はこの気分が悪いのが消えないか思っていた。
「何してんだ?」
「う、あぁ~」
ゾンビみたいな声が出て、ノアが驚く。 俺も驚いた。
「昼飯は食い終えたのか?」
「あぁ、海鮮丼というものはおいしいな」
「よかったな」
飯の話を聞くだけで胃が持たれそうになる。
「あぁ、初めてだったな。 イチローが実際に人と殺しあったのは」
何気ない事のようにノアが言う。 俺は起こる気にもなれずに話半分程度に聞かれる。
すると何かを感じたかのようにノアが海の家のある方角を見た。
「無事保護されたみたい」
そう言うと、俺に帰ると言われる。
「いいのか? 何か見ようとしてたじゃないのか?」
「もう見たいものは見れたからいい」
俺はそっかと言って、立ち上がり駅向かって歩き始めた。
♦
それから、10日ほど過ぎた。 長期休暇は忙しい日々だった。
最初の二日は行方不明事件にかかわることになって、その後の3日は海とユメの葬式に参列することになった。
そこで俺は、泣くことはできなかった。 それよりも、ユメと海の体が別の何かにすり替わっていたことを思い出してしまい、葬式から逃げ出しそうになっていた。
長期休暇が明けたのはつい3日ほど前。
会社に出ると部長に呼び出された。
「君、クビね」
と、クビ宣告を受けて俺は無職になった。 クビの理由を聞くが社長からの命令としか言われなかった。
それを、酒とともにノアに愚痴ると「そうだろうな」と言われた。
それから、暇になった俺は何をするわけでもなく、ノアの行きたいと言われる場所に連れ行く毎日が過ぎていた。
「あぁ、今までのことが嘘にならないかな~」
「無理だろ」
ずっと言っていることを言ってノアに呆れられていた。
最近はずっとこうしてフラストレーションを晴らしている。 というより、大食いがいるから、そろそろ懐が厳しくなってきそう。
「就職なり、バイトなりしないとな」
ノアのことをジロッと見る。 当の本人は興味なさそうにロフトから見下ろしている。 その顔には、腹減ったといっている。
「で、今日はどうするんだ?」
「今日は来客がある」
そう言われて、いやな予感がする。
「それに、仕事も探さなくていいかもしれないぞ」
耳を疑う言葉をノアは言う。 そんなことなんてありえないのにさも当然のように言う。
そこで、タイミングよく呼び鈴の音が鳴る。 呼び鈴を鳴らした相手が見えるモニターを見る。
そこには、冬和さんが映っていた。
そこで、俺は察した。 面倒ごとが歩いてきたと。
~狐火キュウより~
どうも、狐火キュウです。
今回をもって第一章は終わりです。 今回のテーマは『出会い』でした。
次章は『友情』がテーマになっています。 毎章毎章テーマを決めて物語が進んでいきます。 ということで、これからも『アラサーと行き倒れ少女』をよろしくお願いします。
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