本当と師匠

 私の魔力は残り少ない。 使えて後一発ぐらいしか魔法を使うことができない。

 この一撃で決められなければ、私の負け。


『あまり傷つかないように殺してあげる』

 

 目の前に迫る手、それを避けようと体を動かそうとするが、体が言うことを聞かない。

 私はこの攻撃を受けないように魔法を発動しようとしたが、できなかった。 否、しなかった。 攻撃を受けても耐えられるが、魔力切れで倒れるのは危険だと思ったからだ。

 だから、私はこの攻撃を受けることにした。 

 攻撃を受けることによって来る衝撃に備える。

 だが、その衝撃が来る前に頭の中に声が響く。


『力を貸そうか?』


 黙れ、力は借りない。 そこまで、私は落ちぶれていない。


『ハハッ、我慢はよせよ。 力を貸してやる』


 そう言われて、私の意識は闇の中に沈む。

 確かに、ギリギリの戦いだったけれども、あいつが出てくるほどではないはずだ。

 

《???視点》


 あぁ、久しぶりの外だ。 実際には200年ぶりの外だ。


「お前が敵か」


 今までノアが見ていた敵を俺はにらみつける。

 相手はわかっているはずだ。 俺がついさっきまで戦っていた相手ではないと。


『何者だ』


 デカい骸骨がそう聞いてきた。 何者か。 う~ん、何者かと聞かれると困る、昔の肩書は、ノアの体に封印されてから消えてしまったしな。


「あ~ぁ、しいて言うなら、ノアの師匠かな」


 俺は骸骨に肩をすくめなら俺はそう言った。

 俺はノアに魔導士としては尊敬されているようだが、人としては尊敬されていないというか、嫌われていると思う。

 だから、俺を出そうとしなかった。 俺の名前を言おうとしないのは、魔導士の俺があまり目立ちたくない時に言ったことをしっかり守っているのだろうけれども。


「さぁ、お前は俺の弟子を痛めつけすぎた」


 そう言って俺は魔力を両手にまとわせる。 こいつ程度の相手には魔法を使う必要はない。 

 本当は俺が出る幕ではないのは知っているが、久しぶりに表に近づけたのなら遊ぶだろ。


『お前は本当に何者なのだ』

「ハハッ、それだけ知りたいか。 ノアは『神秘の魔女』、魔法を使うには必ず必要な陣を必要としない。 それは、俺がいるからだ」


 俺はノアが放つ魔法はほとんど、俺が組んだ魔法。 しかも、いつもであれば無意識に魔法を組まされている。

 

「そして、神に挑み、神によってこいつの中に封印された者だ」


 この説明以外いらないだろう。 俺は、ノア達アルトラビリス人が信じる神に喧嘩を売って負けて、その弟子であるノアに喧嘩を売ったつけを払ってもらっているというわけなのだが、俺がその神に喧嘩を売ったことによってノアから受ける俺の評価は最悪なのだけれども仕方がない。 

 自業自得。 それに、ノアに説明をしてなかった俺が悪い。 だから、俺はノアがギリギリになるまで出てこないようにしている。


「こんな洞窟じゃ、お天道様も拝めねぇじゃねえかよ」


 そう言い放つ。 目の前の骸骨は一向に襲ってくる気がない。 というより、ビビっているようで、骨が震えている。


「怖いのか?」


 俺はそう聞いた。 俺に恐怖しているのは丸わかりなのだが、それが少し面白くて俺はクスクスと笑う。


『お、お前のその異質な魔力はなんだ!』

「あ? これか?」


 俺の魔力は神に挑んだ時に変質してしまったからわからない。

 だが、死ぬやつにそれを言う意味はない。 その意味を込めて魔力をそのまま飛ばした。 魔法でも何でもない、魔力の塊を投げるようにして飛ばす。


『ぎゃ、ぎゃぁぁあああ!!』


 俺が飛ばした魔力の球は骸骨の半身を消し飛ばした。 文字道理、でかい図体の右半身が魔力に吸われるように消し飛んだ。


「うるせぇ、よ!」


 叫び声がうるさい骸骨を蹴り飛ばした。 耳を抑えたまま。


「まだ、死ぬなよ」


 これで死なれたら面白くない。 せっかく表に出た意味がなくなってしまう。

 地獄なんて生ぬるい目に合わせないと気が済まない。 俺の弟子を傷つけたのだから。

 蹴り飛ばした骸骨を殴る。 それが間違いだった。 殴り飛ばした骸骨は俺の魔力の圧に押しつぶされて魂ごと消えてしまった。


「加減間違えた……」


 俺はそう呟いてこの部屋に倒れている二人の人間のもとに近づいた。

 一人は刺されたことのショックから逃れるために気絶したと思われる男とあの骸骨に憑依された痕跡が残る女。

 両方に回復魔法をかけた。


「これで、あと数分で目を覚ますだろう」


 俺はそう言ってノアと変わった。


《ノア視点》


 気分最悪だ。 出てくることのない男が私の体を使ってクレアを倒したのだから。

 それに、底をつきかけていた魔力も戦う前よりの回復していた。


『んじゃ、俺はまた寝る』


 うるせぇ、さっさと封印されてろ。 心の中でそう言った。 聞こえているかどうかは知らないけれども、私はあいつのことが嫌いだ。 師匠としては尊敬しているけれども、私はケレス様を殺そうとしたあいつをうるさない。

 生きていることも許されないはずなのに私の中に封印されるだけに収まっていることが許せない。 まぁ、あいつがいないと私は『神秘の魔女』なんてたいそうな二つ名はもらえなかったのは癪だけれども。

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