魔法と魔法

 開けた場所に出た。 そこにはクレアともう一人立っていた。

 追いついたというより、待たれていたという方が正しい。


「まぁ、来るよね」


 クレアは少し面白くなかったようで、口調が少しトゲトゲしくなっていた。


「海」


 隣にいるイチローがそう呟いた。 

 あぁ、そうだ。 イチローの親友の海だ。 確か、クレアが殺したと言っている。 つまり、クレアの隣に立っている海という男は。


「この子喋れないから。 さっきは私が喋ってたの」


 そういたずらが成功した子供の用にそう笑いかけてきた。

 その言葉を受けたイチローは絶望したような顔をしていた。 いや、イチローは絶望している。

 大切だった人が二人も死んでいるのだから仕方がないのかもしれない。


「そこのリッチかな? そいつが今までにあった誘拐事件を起こしてたのはそいつだよね」

「正解、起こしてたのはこのこと言うより、この子を使役している私が起こした、だけどね」


 笑いながらそう言ってきた。 少し、イラっと来るけど今ここでアクションを起こせばあの二人の後ろにいる人が危ない。

 多分、あの人がイチローに『たすけて』と送ってきた、白石だと思われる。

 隣に立っているイチローに回し蹴りをする。 それには、目の前にいる二人も驚いていた。


「うじうじするな。 目の前にいるものも助けられない」


 そう私はイチローに言った。 いつまでもここでうじうじされると、白石を救うこともできない。

 さらには、イチローを守りながら戦わなくてはならくなるからかなりきつくなる。


「わかった」


 少し声が震えているけど、さっきよりかはだいぶマシになった。

 まだ、泣いた跡がくっきりと残っているけど、それを見なかったことにして私はイチローに白石をどうにか助けるように頼む。

 これで、私は目の前の二人に集中できる。


「さて、本気でいこうかな」


 私の雰囲気が変わったのがわかったのか、クレアが一歩後ずさる。

 一瞬で身体強化を行い一歩でクレアの目の前に移動する。 クレアからすれば瞬間移動のように感じたかもしれないけれども、これはただの高速移動である。

 この二人はあの男に比べたらこの二人は弱い。 だから、素手でも勝てる。


「ハァッ!!」


 クレアに思いっきり掌底を叩きこむ。 苦痛に顔をゆがませながらも、ダメージを最小限に抑える動きをするクレア。 さらに、隣に立っていたリッチが私に攻撃を加えるべく動き始めたのを見て、リッチの懐に潜り込む。


『爆ッ』


 杖の先をつけてそう言った。

 リッチの体の内側から爆ぜた。 


「これで一体目」


 そう呟いてクレアのほうを見る。 何か引っかかっているが、今のこの状況でできることは少ないはず、それでも仕掛けてくるのならばそれをねじ伏せればいい。


「さぁ、来な」


 挑発するよう手招きした。 それが逆にクレアの恐怖を煽る形になったのか二、三歩後ずさった。

 来ないならこちらから行くまで。

 また、一歩で詰めるために地面を蹴った。 そこで、私の視界がぶれた。

 さっきはそんなことはなかったのに今回はそれが起きた。 何があったのか考える時間もなくこけた。

 こけた理由は簡単だ。 クレアが仕掛けていたのは骸骨たちだった。 というか、地面に潜めておいて私が、その上を通るタイミングで足をつかんでこかせたというわけだ。


「死ね」


 いつの間にか手に持っている剣で私の首を切ろうとするが私はそれを転がって回避して、クレアから距離をとる。

 私が思っているよりも面倒な相手だなと思いつつ、次の魔法を発動するために魔力を集める。

 さっきのは不意打ちだったから、対処されなかったけれども二回目はさすがに通じないだろう。


「さてと、どうしようかな」


 久しぶりの高揚感に思わずにやけてしまう。 それを抑えようとして変な笑みが出来上がってしまうけれども、今はそれを気にしている暇はない。

 目の前の相手をどう戦い、どう倒すか、それ以外気にならない。 目の前の敵以外のことが入ってこない。


爆砲ブラスト


 杖をクレアのほうに向けてそう言った。 すると、杖の先から爆発音と爆風がクレアと骸骨たちを襲う。 それをクレアは剣を杖に持ち替えて、魔法を発動していた。


『砂塵の大楯サンド・ウォール


 クレアの周りに陣が形成されてそこから砂嵐巻き起こり、爆風からクレアを守るような動きをする。

 爆風はすべて砂嵐に防ぎ切られたようで無傷のクレアが出てきた。 骸骨たちは今の魔法で全滅していた。

 それに合わせて、絶対に防御が間に合わない時に待機させていたもう一つの魔法を発動する。


赤雷セキライ


 これはクレアの頭上から赤い雷が降り注いだ。 これをもろに食らったクレアは笑っていた。

 ほぼ即死に近い雷を生身の人間が食らって耐えられるのかと、身構えたが赤雷を食らったクレアは真っ黒に焦げていた。 これで、生きていると言われればすごいというけれども、これは、どこからどう見ても死んでいた。


「イチロー、終わったぞー」


 白石を保護しているイチローにそう言って、イチローのほうを見る。

 そこには、何かで刺されているイチローと刺している白石の姿があった。

 刺しているものを抜いてこちらを向き直る白石。 その白石が放つ魔力は今ここで丸焦げになっているクレアと全く同じものだった。


「さぁ、第二回戦と行こうよ」


 顔にイチローの血がついたまま笑ったクレアがいる。

 

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