拘束と反撃

 ぺちぺちと頬を叩かれている。


「おい、起きろ。 起きろって言ってんだよ」


 頬を思いっきり叩かれた。 


「いてぇな、おい」


 起きたと同時にノアにそう言った。 本当ならノアの頭をつかんでやろうかと思ったけれど、なぜか手が出なかった。

 代わりに手を動かそうとするとジャラジャラっと鉄状の鎖がこすれる音が鳴るだけだった。


「拘束されている?」

「見ればわかるだろそれぐらい」


 ノアにため息をつかれるぐらい呆れられた。 まぁ、ノアの言う通り周りを見ればここが鉄格子に岩肌がむき出しの牢屋で俺たちは今そこに閉じ込められていることぐらいわかる。


「なんで閉じ込められてんだ?」

「……ん? もしかして、覚えていないのか?」


 何のことだと呟いて、俺は意識を失う前のことを思い出す。 


「確か、お前が魔導士……とかって言ってた気がする」

「まぁ、確かに言った。 要約すると、私が言ったのはこれまでに起きた行方不明事件の犯人はあんたでしょ、ってユメ……だったかしら? そいつに言ったのよ」


 これこそ意味が分からなかった。 どういうことなのか説明してほしい。 なぜ、ユメが巷で騒がせている行方不明者を攫った犯人にされているのかが全く分からなかった。


「ど、どういうことだよ! ユメが、は、犯人だなんて!」


 俺はテンパっていた。 というより、俺はノアの言葉を信じられなかった。 

 ユメが犯人だとは思えなかったからだ。 今この瞬間も、俺たちを拘束したと思われるユメたちのことを信じたいと思っている。


「フフフ、正解~。 今までの行方不明が起きてた理由は私たちが起こしてたのよ」


 コツコツと足音を鳴らしながら近づいてきたユメはそう言った。 


「……ユメ? ど、どういうことだよ」


 本当に意味が分からない。 俺が今まで見てきたユメとはかけ離れていた。


「そういうことか……。 お前、何者?」


 何かわかったようにそう言ったノア。 俺は未だに状況がつかめないままでいた。

 

「フフ、やっぱりあなた、魔導士なんだ。 あなたからは、今までの人間とは比べ物にならないものを感じるもの」


 どこか遊んでいるような、そう感じてしまう笑みを浮かべながらノアにそう言った。

 今のではっきりとした。 こいつは、ユメに成りすましている別の何かだと、そうわかってしまった。 今は混乱よりも怒りのほうが沸々と湧き上がってくる。

 

「一つ聞いてもいいか」

「どうぞ」


 立ち上がって俺はそう聞いた。

 帰ってきたのは、こちらをバカにするような笑みが帰ってきた。


「ユメをどこにやった」

「ーー? あ~、この体の持ち主のことね。 死んだわよ、3年前にこの体を乗っ取るのに邪魔だったから」


 最初は何を言っているのか分からないようだったけど、意味を理解すると嘲笑しながらそう言った。


「ふ、ふざけるなよ! 絶対に俺はお前を許さねぇ!」


 鉄格子にゴンッと思いっきり額をぶつけながら、目の前に立っている何者かにそう言った。

 額から血が流れ、口に入り鉄の味がするがお構いなしに俺は噛みつく勢いでいた。


「おうおう、そんな怖い顔で睨まないでくれ。 あぁ、あと私は、クレアという名前があるんでね」


 俺のことは眼中にないか、心底めんどくさそうにそう言った。


「もうすぐ死ぬ身だ。 それだけでも覚えて逝ってね」


 クレアはそう言いながら杖を取り出して俺の胸に押し当てた。

 次の瞬間、俺は吹き飛んだ。 勢いよく何かに押し出され、岩肌が出ている壁に勢いよく激突した。

 バイバイと言いながらクレアはここを立ち去ろうとした。


「待てよ」


 俺は目の前が白黒と点滅しているのも意にも介さず俺は立ちあがりそう言った。


「はぁ~、何だい? まだ何かあるっていうのかい?」


 俺に興味をなくし、ここまで何もしてこないノアにも興味をなくし始めているクレアはめんどくさそうに振り返った。

 全身が痛い。 眼もまともに仕事ができなさそうになっている。 でも、頭だけはクリアになっている。 さっきまでの怒りが消えたわけじゃない。 それでも、一つ俺には聞きたいことがあった。

 それは、何となく予想ができることだけれども、俺は聞かなければならないと使命のように感じていた。


「海は知っているのか? お前のこと」


 そう言うと、「あぁ」と一人で納得して気味の悪い笑みを浮かべた。


「殺した」


 短くそう言った。 心のどこかではわかっていた。 でも、面として言われると先ほどの怒りがまた沸き上がりかけていた。

 でも、それを制すようにノアが立ち上がった。 俺は、立ち上がったノアを見ただけで、笑いそうになるがこらえる。

 


「もしかして泣いてる?」


 それを見たクレアは泣いてると思ったのか指をさして笑いながらそう言った。

 立ち上がったノアを少しだけ警戒した様子を少しだけ見せたようだったが、俺の姿を見て警戒を解いた。


「おもしろいか?」


 そう聞くノアとクレアの距離は鉄格子がなければ触れ合ってもおかしくはない距離だった。


「あぁ、面白いね。 人が絶望する姿と悲しむ姿を見るのは」


 安心しきっているクレアはそう言った。

 その横顔を拳がめり込んだ。


「やっぱり、お前は外道だな」


 どうやってかわからないが牢屋の外に出ているノアはそう言った。

 

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