友とメッセージ

白石冬和しらいしとわ視点》


 ピチョンと水が落ちる音で私は目を覚ました。

 なぜ、こんなところで寝ていたのか全くわからない。

 チャリチャリと金属同士がぶつかる音が響いた。

 手首を見ると私の腕に鎖がつけられていた。

 さらに、足には重しのついた鎖。


「誘拐にしては凝った誘拐ね」


 そう呟いた。 私の心は静かというわけではない。 心臓はバクバクいっているし、冷や汗もかいてある。

 状況はわからないことだらけで怖い。


「なんで、こうなってんの」


 自暴自棄になりそうになりながらも耐える。

 ポケットの中に入れていたものは取られていないかどうかを確認する。

 持っていたカバンは取られているけど、ポケットの中は取られていないことを祈る。


「あった!」


 ついポケットの中にスマホがあったことに驚き声を上げてしまった。 

 私が起きたのがバレてしまった。 カラカラと足音がこちらに向かってくる。 おかしな足音だとは思いながらもスマホのロックを外す。 そのまま、いつも使っているメッセージアプリを開き、一番上になっている人にメッセージを送った。 『たすけて』と。 

 

「ふへっ?」


 変な声が出た。 それはそうだろう。 今、私の目の前に立っているのはガイコツだったから。

 ガイコツなんて、ファンタジー世界の住人のはず、それなのに今目の前にいた。

 私は鳩が豆鉄砲を食ったようになっていたが、状況がはっきりしてくると叫びそうになった。

 いや、私は叫びかけたけどその前にガイコツが持っていた棒のようなもので殴られてまた気絶した。


♦︎


丹内一郎たないいちろう


 あの後、落ち着いた俺はノアに突然白石からメッセージが来たことを伝えた。 

 それを見透かしたかのようにユメからもメッセージが来た。 内容は『明日、乃愛を連れて家に来ないか?』と言うものだった。

 それを見たノアは悪魔のような笑みを浮かべながら言った。


「私も会ってみたいな。そのユメって人と」


 と言ったから、明日連れて行くことになった。 

 あと、ノアは「白石って人のことは心配しなくていい」とも言っていた。 意味はわからなかったけど、とりあえず頷いておいた。


「今は一人じゃないからな……」


 俺一人だったら、家を飛び出して当てもなく探し回っていたと思う。 でも、俺を止めてくれるノアがいたから今は家にいる。


「久しぶりに海に会えるな〜」


 焦る気持ちを誤魔化すようにそう呟いた。 

 実際に海と会うのは1年ぶりになる。 去年の夏にあの二人の子供を見に行った以来だ。

 

「とりあえず、寝るか」


 そう言うものの今日はなかなか寝付けそうにない。


♦︎


 なかなか寝付けず、2時ぐらいにやっと寝られた。

 だから大体、4時間ぐらいは寝られたと思う。


「ねみぃ」


 眠たい体を無理やり動かしながら朝食を作っていた。 

 作り終えた後にノアを起こして朝食を食べて、海のところに行く準備をした。


「おい、ノア、それでいいのかよ」

「うん、こっちのほうがいい」


 ノアはジャージ姿でそう言った。  俺は、ノアに昨日買った服を着ていったほうがいいと言ったけれども、ノアは動きやすい服でと言っていつの間にかジャージを着ていたわけだ。


「まぁ、ジャージ姿だからって何か言うわけではないともうから大丈夫だと思うけどな」

「イチローならそう言うと思ってた」

「一応言っておくが妥協だからな」


 俺はそう呆れながらそう言った。 俺の話を聞いていないであろうノアは上機嫌で外に出て行った。

 俺は深いため息をついてノアを追いかけるように外に出た。 



「ここがユメの家だ」


 俺が住んでいるアパートから電車を使って約30分ほど行ったところにユメと海の家がある。 俺と海はだいたい1年ぐらい会っていないから少し楽しみにしている。

 ノアはというとなぜか神妙な面持ちをしていて、深めの深呼吸をしていた。


「どうしたんだ、ノア?」

「ど、どうもしていないぞ」


 俺が声をかけると驚いたのか声が少し上ずっていた。 

 そのノアの反応に首を傾げつつも俺はインターホンを鳴らした。


『はーい』

「俺だ」

『開いているから入ってきてもいいよ』


 そう声が帰ってきて俺は玄関を開けて家に入った。

 廊下を歩き終え、ドアを開けるとそこには部屋でくつろぐ海と俺たちのためにお茶を用意しているユメがいた。

 久しぶりに海に会える。 積もる話はあるが初めに挨拶だ。


「久しぶりだな、海」

「……久しぶり、イチロー」


 少し驚いたようにした海を見て少し変だなと思ったが、それを口にしなかった。


「イチロー君、とりあえず座ったら?」


 テーブルの椅子を引きながらユメはそう言った。 テーブルにはお茶が二つ置いてあり、俺とノア用だと分かるようになっていた。


「ありがとう、ユメ」


 そう言って俺は椅子に座りお茶を一口飲んだ。

 ノアも部屋をずっと眺めていたが、お茶を差し出されると一気に飲み干した。


「ノア、お前も少しは座ったらどうだ」


 少し説教臭いことを言いながら、俺は椅子を叩いた。

 ノアはそれを無視して、部屋のあちこちを何か探すように歩き始めた。

 そして、それは突然来た。


「見つけた」

「何を見つけたんだい? お嬢さん」


 そう言った海にノアは笑みを返した。 それはどことなく、謎を解明する前の探偵のように見えた。


「隠し扉、あなたたちでしょ。 誘拐事件を起こしてる魔導士は」

「は?」


 何を言っているのか分からなかった。 俺はそれがどういうことか問い詰めようと立ち上がった。

 その時だった、突然強い眠気に襲われて、その場に倒れてしまった。

 最後に見たのは、あざ笑う笑みを見せるユメの姿だった。

 

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