少女と少女

 武器が欲しい。 久しぶりにそう思った。 杖があれば制圧できる、それは間違いないけど、その杖がない。 


「来ないならこっちから行くぞ」


 そう言うと一気にこちらに詰めてくる。 速度はそこそこ、簡単に避けられるほどの速度だけれども、あいつの手に付けている指ぬきグローブから嫌な予感がする。

 その予感は当たっていた。 拳を振るいだすと同時に拳が加速をはじめ狂暴的な力が襲ってくる。

 それを回避した私は、男から距離をとった。 

 今の一撃であれが何なのか判明した。 そして、今一番相性の悪い武器でもあった。


「なんで、そんなものがここにあるんですか」

「これ? 作ってもらったんやで、ええやろこれ」


 胡散臭い笑みを浮かべながら殴った手をグーパーと調子を見ながらそう言ってきた。

 あの男がつけているのは魔道具、しかも、自身の身体を強化するような部類の魔道具。 私も身体強化をしているけれども、それを無にする身体強化の魔道具。

 さっきまであった私と男の力の差は再び振り出しに戻ったも同然だ。


「やりにくい……」


 ギリッと歯ぎしりしながらもどうすればいいかを考える。 ここで足止めされている場合ではない。 二人がそろう前に逃げないといけない。

 そう思い体を動かそうとするがそれに合わせて男も動いてくる。 それを忌々しいと思いながら先ほど男が思いっきり殴りつけて壊したパイプでできたゴミ箱から転がってきたパイプをつかんだ。

 剣術はできない。 ただ、パイプを振り回すだけになるけども関係ない。 今できることは何でもやる。 それが、勝ち筋の少ないものであっても。


「あぁ、それはあかんな。 でも、嬢ちゃん、俺だけに気を取られてもいいのかい?」


 殺気を感じた。 目の前の男ではない、別の場所からの殺気。 完全に私を狙ったもの。

 咄嗟に私は避ける。 危険だと本能が言っていたから。

 避けて正解だった。 私がいた場所に二本の短剣が刺さっていた。

 

 完全に殺しにかかってるこれは。 本当に危ないところだった。 あと少し遅れていたらあの短剣は私を突き刺していた。


 男と突き刺さった短剣から目を離さないように短剣を投げた犯人を捜す。 だが、探す必要はなかった。 短剣が刺さった場所に一人の女性が下りてきた。

 その女性はさっき、男と一緒にいた人だった。 『閃光フラッシュ』で目をやられて、回復してそのまま私を追ってきたのだろう。


「どうして逃げるのですか?」


 そう狂ったような笑みでそう言った。 それに私は恐怖を覚える。 こいつの何かが壊れていると。

 

「名前は……」


 私はそう聞いていた。 無意識でだ。 興味が湧いたのだ目の前の二人にだから、名前を聞いた。


「魔法使いに教える名前なんてない!」


 短剣を構える女性からはそう言われてしまった。 しかし、男のほうはニヤニヤした顔のままこちらに近づいてきた。


「まあまあ、みおちゃん、名前ぐらいええやろ」

「魔法使いは私の敵です」

「もし、敵やなかったとしたら?」


 は? という顔になる澪と呼ばれた女性。 うん、澪ちゃんって言うんだ、かわいい名前だね。

 

「ねぇ、君。 ラビュトスって知ってる?」


 そう言われて私は首をかしげる。 ラビュトスなんて名前を聞いたことがない。

 何かの秘密結社か何かの名前だとしても本当に知らない。


「うん、ホンマに知らん見たいやね。 その魔法は誰に教えてもらったん?」


 矢継ぎ早にそう言われる。 師匠の名前は言えない、あの人は名前を隠していた。 

 それに、私は別の世界から来た人間。 だから、誰にも信用されないと思う。 イチロー以外には……。


「言えないかぁ~。 まぁええわ。 今回は逃がしたるわ、でも、また今度首突っ込んだら敵対行為とみなすからな」

「ちょっと!! 私たちの目的は魔法使いの捕縛ですよ!! 何見逃す流れになっているんですか!?」


 驚いた声を上げる澪ちゃん。 それもそうだろう、私も驚いている。 さっきまで殺されそうになっていたのにいきなり逃がしてくれる流れになっていて、不思議な感じ。


「そらそうやろ、この嬢ちゃんはただ巻き込まれただけ、俺がそう見たんだからそうやろ。 あと、任務と関係ない魔法使いを捕まえるのはめんどい」


 本音が聞こえた。 でも、見逃してもらえるのならありがたい。 


「ダメです! このままじゃ、本当に、本当にダメなんです」


 最後のほうは消え入りそうな声音になっていた。 魔法使いによほど強い恨みがあるようだけれども、私がいた世界では日常茶飯事だったからわからない。


「ん~、確かに俺の身じゃ何も言えないけど、こいつはお前の味方になってくれる、そんな気がする」


 ……目の前で口論が繰り広げられているが、私は完全に蚊帳の外になっていた。

 もう、帰っても何も言われないんじゃないかと思ってきた。


「ねぇ、君は俺たちの組織に入る気はあるかな?」

「考えとく」


 即答でそう言った。 イチローにこのことを伝えておきたいし、この二人が何をしているのかもわからない(ある程度の予想はついている)。


「そっか」



 そのまま帰らされた。 ほんとに意味が分からない、なぜなにもされなかったのかがわからなかった。


「ただいま」

「の、ノア、手伝ってくれ」


 家に帰ったらイチローが慌てた様子でそう言った。 手に持っているスマホには白石冬和しらいしとわからのメッセージが来ていた。 そこには、短く『たすけて』と書いてあった。

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