飯テロと語りの続き
《一郎視点》
結局、星を見ることはできなかった。 たまに星を見たくなる気分になる。
そういう時にあの高台に行って月を見に行くのだけれども、星は本当にたまにしか見えない。 それは、人の生活灯が絶えず光っているから。 例えば、人が完全に動かなくなる朝の3時とかなら星も見えるだろうけど、そこまで待つことができない。
「またいつか、あそこに行こうな」
「そうだね、イチロー」
ノアはあの場所にすごく食いついていた。 それこそ、日が暮れても景色が夕方から夜に移ろいでいく姿に目を奪われていたのだから。
そこで語ってくれたことはノアが隠しているほんの一部。 本当に重要なことはまだ何も話していない。 これを俺のほうから無理やり聞くのは無粋というわけだ。
だから、俺はあの場所では何も聞かなかった。 ただ、最初に聞いた魔力回復をするというその一点だけだった。
「イチロー、帰ったら私の話を聞いて」
「……! わかった、それまで何も聞かないからな」
それだけで満足したのか、ノアは何も言わなくなった。 それでも、先ほどまで何かを考えていたような面持ちは消えてどこかすっきりしているようだった。
♦
「イチロー、お前は何から知りたい」
「どこからでも、俺からは聞かないよ。 ノアのしゃべれるとこからでいいよ」
俺はそう言って、いつも備えてあるレトルトのご飯をフライパンにぶち込んだ。
そして、昨日ナポリタンを作るときに余った具材を一緒に炒めて塩コショウで味を調えて、さらによそう。
「飯を食いながらでもいいよな?」
「うん、いいよ」
出来上がったチャーハンからは鼻を突き抜けて、胃袋を刺激してくるようないいにおいを放っている。
昨日のナポリタン同様に俺がお手軽に出来る料理の一つなのだが、ナポリタンは俺一人だと作りすぎてしまうからなかなか作らないけど、チャーハンは作りすぎることがないから結構楽だ。
「いいぞ、食べても」
「……いただきます」
「はいどうぞ」
そう言って俺も「いただきます」と言ってスプーンで一口ほどすくい上げて食べた。 少し塩が多かったかもしれない、少し塩辛い。
「いいか、イチロー」
「あぁ、いいぞ」
二口目、三口目と口に運んだ時にのがそう話を切り出した。
「私はこの世界にどう来たのか分からない。 最後、私は何をしていたのか全く思い出せない」
そう言った時のノアの顔色は災厄だった。 結構白いと思う顔がさらに真っ白になっていっていたのだから。 それだけ、思い出すことをノア自身が拒んでいるのがわかる。 でも、そんなことなんて関係ないと言わんばかりに話を進めるノア。
途中、何度か倒れそうになりそうになり、止めに入ったが聞いていてほしいと力のない笑みでそう言われた。
本当は止めに入りたいがノア自身が話してたいというならばそれがノアのやりたいことなら最後までやらせたほうがいい。 変な心残りを残してほしくはないから。
結局のところ、途中までしゃべってもう無理そうになったので休んでもらった。
ノアもこれに関しては仕方がないと言っていたから大丈夫のはずだ。
♦
ノアの話によるとノアは『魔法世界アルトラビリス』の一番大きな国である『ビュトリノトロ』という国のお抱え魔導士だったようだ。 ノアが『神秘の魔女』と呼ばれていたのは、ノアが魔法を行使するのに必要な杖を媒介にして、陣を発動せずに魔法を使えるからそうだ。
そして、ところどころノアから記憶が消えていて、ノアの記憶に見え隠れする『鬼』と呼ばれる存在。 この『鬼』と呼ばれる存在がノアがこの世界に来たことに何か関係があると俺は思っている。
「まぁ、今は休んどけよ」
「んー」
起きてはいるけど起き上がるほどの体力がないほどに過去を話すだけで削られていたことがわかる。
どれほどえぐい過去なんだよ、と言いたくなるけどノアにしかわからない。 俺にはわからないほどに心に深い傷を負っているのだろう。
信頼してくれているのはわかっているけど、俺にできることは今、ノアが感じている今の生活をないものにはできない。
「さてと、どうしようかなぁ」
俺はノアにこのつぶやきが聞こえないようにベランダに出てそう呟いた。 力になりたい、そう思ったことはこれが初めてではない。 あの時、あの日、あの人と約束した日から俺は力になれることがあれば力になってきたでも、今回は違う。 ノアは俺にはわからない超常的な力を持っている。 もしかしたら、あいつの力になれない時が来るかもしれない。 俺はその時が来た時のことばかり考えてしまう。 そんなときが来たとしてもあいつのそばにいると決めているはずなのに、もう少しでそんな日が来てしまいそう。 そんな気がしてしまった。
「あぁあ、忘れよう。 ネガティブな思考は体を鈍らせる。 だから、こんなことを考えるのはやめよう。 そうだな、明日のことでも考えよう」
そう考えを切り替えて俺は明日ノアをどこに連れていくかを考えることにした。
そして、俺はロクにこういうことを考えたことがなかったからとてつもなく思考がネガティブなほうに寄って行ったのは言うまでもない事だろう。
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