第8話

 卒業式からは、中学校の入学式までほとんど外に出ていない。おじいちゃんおばあちゃんが合格祝いを持って来てくれた時にマンションの駐車場に降りただけだ。


 あとは、桜が満開の頃に車の中から桜を見るくらいいいだろう、とジュースとおにぎりを持って家族みんなで車で大きな公園に行って、車中お花見をした。


 入学式は6月だった。


 2月の入学者説明会の時に


「入学式の後は、うちの学校の自慢の桜の木の前で集合写真を撮ります。今年は暖かいから、入学式の頃は満開かもしれません。楽しみにしていてください」


 って先生が言ったから楽しみにしていた桜は1枚の花びらすらなかった。


 入学式も1時間もかからなかった。教室は狭いから、と私たちのクラスは窓大開放の柔道場に集められた。


 たくさんある書類やお便りを先生が歩き回って1人ずつ手渡ししていた。ああ、小学校の時みたいに前から後ろへとお便りを回すと、みんなが触ることになるからか。


 こんな状況で、学校再開なんて大丈夫なのかな。初めて入った柔道場で、少し不安になった。


 入学後も感染予防のため、お昼ごはんを食べる時も私語は禁止で、全員自分の席で前を向いて食べる。


 良かった。


 みんなが友達と食べる中、ひとりぼっちでお弁当を食べるはめにならなくて。


 あ! すとぷりの曲だ!


 大那中では、お昼ごはんの時間にいろんな曲が放送される。放送委員なのか生徒が選んでるみたいで、ボカロ曲も多い。


 斜め前の席の女の子が


「すとぷりだ!」


 って、隣の席の女の子とすとぷりの話をしてた。初回限定のアルバムをこの子たちも買ってるんだ! ガチだ! この子たち、ガチのすとぷりファンだ!


 同じクラスにすとぷりファンがいた! 嬉しくて、家に帰ってママに報告したら、


「良かったじゃない、すとぷりの話したの?」


 と言われた。


「してない」


「そこは話しようよー。絶対仲良くなれるじゃん!」


 って言われたけど、私も本当に大好きだけど、私よりも上回るガチファンっぽくて、話しかける勇気は出なかった。

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