第2話

 バレンタインには、かなり久しぶりに小学校の友達に会えて、すごく楽しかったなあ。


 私は中学受験をして大那だいな教育大学附属中学校に通っている。同じ小学校から来た子は1人もいない。


 同じ塾だった子は2人いるけど、みんなクラスが分かれた上に、2人は塾でAクラス、私はBクラスだったし、私はものすごく人見知りだから全然仲良くない。


 1次試験の合格発表の時、同じ塾の東野ひがしのさんがどうだった? って声を掛けてくれてびっくりした。しゃべったことなんてなかったから。


 小さい声で


「合格してた」


 と答えたら、


「おめでとう! 私も合格したし、水谷みずたにさんも合格したって!」


 とすごく笑顔で言ってた。東野さんのお母さんも、おめでとう、と言ってくれた。


 私が小さい声で


「ありがとうございます」


 って言ったら、ママがテンション高く


「おめでとうございます!」


 と言って、東野さんと東野さんのママとしゃべっていた。


 東野さん母子がいなくなってから、


「柚子、もっと、おめでとう! って大きな声で言わないと!」


 って言われた。でも私、初めてしゃべる子にテンションなんて上げられない。


 2次試験の合格発表の時には、私の受験番号はなかった。


 私は1次試験に受かっただけでも奇跡だと思っていたから、大きなショックではなかった。と、思う。


 ママは一生懸命慰めてくれるけど、私は本当に大丈夫だから、と繰り返した。


 不合格の私はこの後の合格者説明会に出席する必要がないから、中学校を出ていく。門の所で、東野さんに会った。


「どうだった?」


 って1次試験の時のように聞かれたけど、同じ答えはできない。精一杯笑って、何も言わなかったけど、バイバイ、と手を振った。

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