第25話 回想 恋をした理由
「あぁぁぁぁぁぁ!! やっちゃったぁぁぁぁ!!」
最後の最後はまるでこれまで通りと行った感じの茅原椎名をお送りしたものの内心はそんなことを言っていられないくらいには心が揺れ動いていた。
もちろん今日一日を総体的に評価するのであれば満点をつけたいレベルの快進撃を見せたわけだが(あくまで個人的に)、それでも私の心に与えたダメージ量もそれに比例するレベルで高かったことだけはここで伝えておきたい。
よく勘違いされがちなのだけれど、私は駆け引き上手でもなければ恋愛上手でもない。
なんならその恋愛経験すらまともにないということで、恋をした経験が過去に一回と、今に一回だけだ。まあそのどちらも同じ人間に対してなのだから正味一回とカウントしたほうがいいだろう。
だからこそ、私はその一回に全力をぶつけたい一心で今も行動している。
それでもふと考えてしまうことがある。
————何故、彼だったのか……と。
かの有名な作家もこう言っていた。『人間は恋と革命のために生まれてきた』と。
ただ、じゃあその恋をした理由について、私は深く考えたことがあったのか。
まあ考えたところで今の私の気持ちが変わるわけでもないけれど、ここで自分の気持ちを回顧してみることで今よりももっと彼のことを好きになれるんじゃないか……なんてことを考えて見たりする。
「うーーん……」
——思い返す記憶は今よりも遡ること五、六年前。私が小学生の頃のことだ。
小学生の高学年ともなれば、少しだけ大人に近づいてきた心と体が男子と女子の違いをいやでも感じさせる。
私にとって一番嫌だった時間だったと言える小学校高学年、それと同時に私にとって一番大切な時間だった時代もその頃であるというのがどこか矛盾していて複雑な気持ちを抱いてしまう。
ここで一つだけはっきりさせたい。私はこの頃には明確に駿のことを意識していた。
これは紛れも無い事実だし隠す必要も感じない初恋の相手。
ただ、じゃあ何故彼だったのか……という先ほどの自分自身への問いかけに対する答えとして適切な回答とは言えないのかもしれないけれどこう答える。
明確な理由なんてものはない。
そう、恋に落ちた理由なんてものは一つもないのだ。
それでもこれだけは言えるのは、それでもこの気持ちは錯覚でもない。
私の中でずっとある恋心。
あえて理由を探して出て来る答えがあるのだとすれば、“私の傍にいてくれた”からなのだろう。
でも、それを理由にしたらまるで私は吊り橋効果のように恋に落ちてしまったように見えてしまう。
そもそも私はそんなことが起こるよりも前から駿を意識していたし、恋をしていたという自覚もあったから理由と言えるほどの理由にはならないだろう。まあ、それが燃料となってその恋の火が大きくなったということは言えるのかもしれない。
彼からすればそれは別に何も変わらない当たり前な行動であって、特に意味も持たず日常生活を送っていただけなのかもしれない。
けれどそんな彼の行動が私にとっては救いになっていたし、今も彼に対して抱いている感情が変わらない大きな理由。
「はあ、やっぱりどうしようもないくらい好きなんだな」
そう自分に言わせてしまう理由は、昨日の自分のやりすぎとも言える行動だった。
「キス……しちゃったんだもんな……」
思い返すだけで顔が赤くなってしまう。
なんだろう、人ってもっと何かしらの理由があってキスをするのだと思っていたのだけれどもどうやらそうでもないということがわかった。
壮大なエピソードの果てにハッピーエンドを呼び込む……なんてメルヘンチックなものだっていう認識を持っていた。だって女の子なんてみんなそういうもんじゃないの?!
王子様がいて、お姫様を救うのにキスをする童話。結婚式という女の子にとって憧れのシチュエーションでするキス。キスってものが特別なものだという認識を持って育ってきたのって私だけ?!
現実を見てみれば、喧嘩して仲直りして感極まってキス。
「うぅぅぅぅ〜〜」
変なうめき声が漏れ出てしまう。
でも、立ち止まってはいられなくもなった。
自分に後戻りはできないとあえて退路を断った。
それくらいじゃないとこの数年越しの恋に決着をつけられない。
「やってやる」
一度、半分断られたような回答を受けた私が再び舞台に上がることができたんだ、あとはもう動くことででしか自分の望む未来は得られない。
頬を一度パンと叩く。
「見ててよ駿、私はもう逃げないから」
誰もいない部屋の中で、ここにはいない駿に向けて宣言した。
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