第18話 祭りの前に
「——へぇ、そんなことがあったんだな」
「お前……他人事だと思いやがって……」
「まあ、現に他人事だし」
「薄情な!」
「それはその現状を招いてしまった自分のせいだと思って反省することだな」
現在は夜の八時過ぎ。
程よく綻んだ二人の関係が拗れることなく限られた三時間という時間いっぱい遊び尽くした俺らは、そのまま帰りのバスに乗って解散となった。
そして、現在今日の買い物に参戦することの出来なかった残念男と今日の総括を行なっている真っ最中。
「ただよ、ここまでのことになっている以上お前としてももう見ないふりはできないぞ」
「それは……分かってるって」
自分の中でも分かっているつもりではあるけど他人からそう宣告されるといよいよ事態が表面化しているんだなと思わずにはいられない。
「多分、色々動くぞこの先。お前がフラフラしてたら誰も幸せにならんぞ」
「ありがたいアドバイスだよ本当」
正樹の心からのアドバイスをありがたく胸に刻み込む。
「傍目から見たら羨ましい状況だよ、本当」
「お前、当事者からしてみれば大変なんだよ」
「美織もその椎名って子も本当がんばるよな……。悠里もな」
椎名については再開した直後にさらっと幼馴染だという説明くらいしかしていないが、なんとなく今日の話から推察したのだろう。
逆にいうと彼女の向ける好意がそれくらいわかりやすいのかも知れない。
「もうさ、正直この際その中の誰かと付き合えばいいんじゃないの? 別に誰かが嫌いとかじゃなくてお前の場合そのどれも大事だから踏み出せないみたいなことだろ? ならなおさら誰かと付き合うって選択肢を取った方がお前的にもそのほかのメンバー的にも気が楽になるんじゃねえの?」
ほかのメンバーも気が楽になる。その言葉を聞いた時に自分の考えの外側の意見というか、自分の思考の浅慮さに気づかされる。
自分の状況ばかりに目がいって自分自身に気持ちを向けてくれている椎名たちの気持ちにまるで目がいっていない。
「そうだね、そこまで考えがいってなかったよ」
「お前が何も決めないと何も前に進まないぞ。それにおあつらえ向きのイベントがすぐやってくるだろ」
「七夕祭りか……」
七夕というと頭に浮かぶ日付は七月七日なのかも知れないがなんと不思議なことに俺らの住む地域では八月の最初の週の週末に開催される。今年は八月の七日と八日がそれに当たる。
なんで八月なのかといえばこれは新暦と旧暦の絡みがあるらしい。複雑なことは覚えていないが、とにかく世間一般で言うところの七月七日の七夕と全く同じ意味合いの七夕だ。
皮肉なことを言えば織姫も彦星ももしかしたら一ヶ月越しに二度目となる密会がここらへんで行われているのかもしれない。そう考えると少しだけ七夕を面白く感じてしまったり。
例年この七夕祭りはカップルで来る同級生が多いのが特徴で去年の俺もまさに例に漏れずそうだった。
彼氏彼女がいない人たちにとってはこのイベントをきっかけに友達以上恋人未満の関係な異性と来ることで急接近を図る。そんな目的もあるからより異性同士であつまるイベントになる。
この日に誘われるということの意味合いを多くの学生も理解しているからこそ、ここでお誘いにオーケーをもらえるということはイコール恋人になってもいいということに繋がるし、そういうイベントがないと踏み出せない人間もいるからこそここ一番の絶好のイベントになっているというわけだ。
————来年、一緒に行けたらいいね…………。
ふと懐かしい記憶が蘇った。本当にフラッシュバックに近い。
それは数年前の出来事、約束を叶えることのないまま遠くに行ってしまった彼女との小さな小さな約束。
「おーーい、聞いてんの?」
「……えっ? なんだっけ」
「たく、人が真剣に話してるのにぼーっとしやがって。もういいよ、明日も早いからそろそろ寝る支度する」
「ああ、アドバイスありがとな」
「あいよ、それじゃまたそのうち」
プツンと通話が切れる。
急にやって来る静寂に耐えきれなくなってテレビをつける。楽しそうなバラエティを何も考えずぼーっと見つめてみるがその内容が頭に入ってくることはない。
俺の思考をつかんで離さなかったのは先ほど急に頭に浮かんだ遠き日の彼女との思い出のような、約束のような、小さなエピソードだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます