第12話 デート日和
週末になると同時に俺らの夏休みが始まりを告げる。
平日から始まる夏休みとは違って、まだ夏休みが始まったという感覚は薄いものの、それでも朝目が覚めたときに週明けの授業を意識せず過ごすことのできる土曜日曜というものに高揚感のようなものを覚えた。
時刻を確認すれば、朝の七時半。
いつもであればもう少しゆっくりと朝のダラダラタイムを過ごしてからリビングへ向かっていくわけだけど、今日はそうもしていられない。なんたって夏休み初日から予定が入っているのだから。
スプリングが軋む音に名残惜しさを感じるものの、それを振り切って自室を出る。
今日はどうやら両親よりも俺の方が起きるのが早かったらしく、静かなリビングに週末を感じさせる朝の音が入り込んでくる。
ジリジリとトースターがパンを焼き、コポコポとコーヒーメーカーが雫を垂らす。
そんな優雅なひと時を感じながら、窓を開く。
まだ夏の朝を感じさせる青々とした緑の匂いと、秋の訪れも感じさせる少しだけひんやりとした風が窓から入り込んでくる。
少しの間朝の気温に体を慣らしていると後ろでチンとトースターがなった。パンの焼けた香ばしい匂いを風が運んでくる。
そんな朝の気配を感じながら、朝食を済ませる。
お決まりのコーヒーブレイクを決めれば時刻は八時半を迎えようとしている。
今日は十時から予定がある。それも考えれば準備を始めるにはいい時間なんじゃないだろうか。
重たい腰を、予定があるというモチベーションで持ち上げ、身支度を整えるべく洗面所へと向かった。
前回を見習ってヘアスタイルや服に気を使う。そんな時間に少しばかりのウキウキを感じているのだから自分の楽しみ具合を伺える。
今日のコーディネートは、白いパーカーの上から黒のチェスターコートを羽織るといったシンプルなもの。下にはネイビー色のチノパンを合わせればあら不思議、シンプルでおしゃれなコーディネートの出来上がり……とグー○ル先生が教えてくれた。
そもそもがシンプルな服しか持っていない俺にとっては非常にありがたい組み合わせだった。
最後に完成させたヘアスタイルにスプレーを吹きかけて準備万端。時計をチラッと伺えば九時半前といったあたりで、未だ寝室から出てこない両親に対し最低限の音量で「いってきます」と呟き家を出る。
天気は快晴、ところどころで雲がプカプカと泳いでいるくらいで青空が大半実にいいお出かけ日和。夏らしい暑さを未だ感じさせつつも種を落とし始めたひまわりが道路沿いの花壇に咲いていた。
そんな光景を眺めながら自転車を最低限の速度で走らせる。
目的のショッピングセンターに向けて出発進行……といってもものの数分の距離であっという間に目的地に着いてしまう。
前回ここで待ち合わせをしていた時にはなかったカフェがオープンしていて今日はそこで外の景色を眺めながら待ち合わせの相手を待つ。
朝にコーヒーを飲んでいるのにも関わらずこういうカフェに来てしまうとコーヒーが飲みたくなってしまうのだから不思議だ。
アイスコーヒーをちうちうと吸っていると店の入り口の所に一台の車が止まった。
そこから降りて来たのは美織だ。
そのままきょろきょろと鏡越しの店内を眺め俺の存在を見つける。
店内に入ってくると、俺の対面の席に腰掛けた。
「まだ、約束の時間よりも早いけどいつも通りの到着だね!」
普段よりも大人っぽさのようなものを感じさせる美織がやってくる。
今日はスリットが入ったフェイクレイヤードのスウェットに下は黒のカジュアルパンツを合わせている。俺の語彙力じゃ言い表せない魅力がそこからは溢れ出している。
「うん! シンプルでかっこいいね!」
髪が揺れて、いつかの柑橘系の香水がふあっと香る。
「美織も、なんていうか綺麗だな」
別に恋人同士でもなんでもないのに、ちょっとそれっぽい会話のやり取りに照れそうになる。
ここで照れたら負けだと自分に言い聞かせなんとか赤くなりそうな頬を、アイスコーヒーの冷たさで抑える。
「あり……がとっ……」
こちらはあっさりと頬を染める。
そんな所作が美織の女の子っぽさを引き出していて、見ているこっちまで照れてしまった。
俺らがそこから会話を始めるのに数分を要したことは言うまでもないことだろう。
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