第11話 通話
家についてひと段落した頃だ。
思い出したように俺は、スマホを制服から取り出しベッドにポンと投げ飛ばす。
ぽうんぽうんと飛び跳ねるスマホを横目に制服から着替え、壁にもたれかかりながらベッドに座る。
美織から送られてきたメッセージの内容を開くと、そこには早速というべきか夏休み中のお誘いみたいなものが届いている。
内容は、悠里の誕生日がもうすぐだということで明日一緒にプレゼントを買いに行かないかというものだった。
「そっか、もうそんな時期か……」
去年もこのくらいの時期に美織と正樹で買い物に行ったのを思い出す。
俺は迷うことなくその誘いに対し、イエスと送った。
送ったメッセージに返信が来たのは七時を回った頃だった。
いや、返信というよりかは、返事というのが正確なのかもしれない。
なぜならそれは、メッセージではなく実際の美織の声で返って来たからだ。
食後、部屋で休んでいると俺のスマホがブルブルと震えだした。
「もしもし駿くん?」
普段聞き慣れた声が自分のイヤホン越しに聞こえてくるという感覚に違和感を感じてしまう。
「もしもし」
「なんか、夏休みで毎日会うことないなって考えたら急に寂しくなっちゃった」
顔が見えないはずなのに、どこか寂しそうな表情を浮かべる美織の姿が浮かんだ。
「俺も、なんか似たような気持ちになったからわかる」
どうやら、帰り際に抱いていた感情は俺だけのものではなかったらしい。それが少しだけ嬉しくて頬が緩む。
顔が見えないということを少しだけありがたく感じた。流石にこんな緩んだ表情を見られたらたまったものじゃない……。
「そういえば、明日は部活はないのか?」
「そうなんだよね、明日は休みなの。だからタイミング的には明日かなって」
悠里の誕生日は八月に入ってから。しかし部活動やら家族の旅行やらでそれぞれのタイミングが合うのかどうかなんてわからないし。それ以外のイベントもあったりする。そんなタイミングでこうしてプレゼント選びに一日費やせるかと問われると難しいというのが本音だ。
残念ながら、正樹に関しては明日は朝と午後の両方の時間を部活動に充てるため無理だという連絡が来ていた。なので明日は二人きり……。
「ふふっ! 楽しみだね!」
少しだけ憂鬱に感じていた夏休みも、初日から予定が入ったことでどこか楽しくなりそうな気がしてくる。それは美織に関しても同じようだ。
「今年は何を選ぼうかな……」
「駿くんって去年は何プレゼントしたんだっけ?」
「去年は無難にマグカップだったな」
「うわぁ〜無難」
「いやっ! さすがにまだ仲良くなったばっかだし距離感わからないから変に狙ったプレゼント選べないでしょ!」
「いやいや、駿くんならできるでしょ?」
「俺を一体なんだと思ってるの?」
「ふふっ」
なんだか、美織と通話をするなんてことこれまであまりなかったこともあって最初は少し緊張のようなものを感じたけれど、どこか波長があうといえばいいのか、なんてことのない会話を重ね、気づけば七時過ぎをさしていた時計の針は一周して八時過ぎを示している。
「もう一時間も経ったんだね」
「俺もちょうど同じこと考えてた」
「私たちどこか似てるね」
「そうかもな」
どこか蠱惑的な声音で呟く。
耳元からそんな声が聞こえてくるもんだから心臓は少しだけ鼓動を早めてしまう。
「それじゃあ、私はそろそろお風呂に入らなきゃ! 明日は十時にいつものところでいい?」
「ああわかったよ。俺も風呂に入るわ」
「行動も同じだね!」
「じゃあ、風呂に入るのは後にするか」
「もう! そこは乗ってくれなきゃ!」
「それだとなんだか美織の手の平で転がされているみたいでな〜」
「も〜!」
イヤホン越しでパンパンと軽く何かを叩いている音のようなものが聞こえてくる。
「それじゃあ、また明日な」
「むぅ〜、わかったよ〜」
むくれっ面な美織の姿を思い浮かべ、名残惜しくも通話を切る。
急にしんとなった室内にどこか寂寥感のようなものを感じながらも、俺の表情はそれとは逆に笑顔だったんじゃないかと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます