第10話 夏休み前の寂しさ


 高校生活の定常イベントとして屈指の二大巨頭、文化祭と体育祭のうち体育祭が終わった。


 あえてここで定常と定義したのは俺らの学年である二年生にはあって、他の学年にはない高校生活において最大のイベントである修学旅行が存在することもあるからだ。それゆえにどの学年にも均等に回って来るこの二つのイベントを定常イベントと名付けた……っとそんな蛇足はおいておいて、その片方である体育祭が終われば一気に学校の行事は秋方面へと切り替わる。


 そして秋を迎えるよりも前に俺らにやって来るのは……そう。


「なっつやっすみ〜〜!!」


 元気な悠里の声が教室に木霊した……べつに悠里の苗字である児玉と木霊をかけたダジャレを言いたいとかではなく、そんな悠里の掛け声とともに俺らの夏休み前最後の授業が終わった。


 七月も最終週に入り、そこからお盆終わりくらいまでの約三週間ほどの期間俺らにとっては嬉し楽しい夏休みがやって来る。


 それに夏休みといえばいろいろなイベントが待っている。それらを前にすれば悠里の反応の方が一般的だ。


 しかもそれに加え、俺ら二年生には定常ではない高校生活のビッグイベント修学旅行も夏休み明けには控えている。それに近づく高揚感からか、クラスの女子たちは毎日のように黒板に様々なチョークで色付けし、「修学旅行まであと何日!」と書かれた黒板を背景に写真を撮っている。


 こんなことを言っている俺もその中に混じって写真を撮ったりなんだりしているのだからあまりバカにはできない。


「じゃあ、俺は部活だわ。なんかあったら誘ってくれよ、基本部活午前中までだから」

「ああ、わかった。むしろそっちもなんかあったら誘えよ!」

「はいよ」

「じゃあ、わたしもいくかな! いこっか! みーちゃん!」

「うん! じゃあね駿くん! またそのうち!」

「二人も頑張れよ!」


 大きく手を振って教室を後にする悠里とは対照的に、胸元で控えめに手を振って出て行く美織を見送る。


 夏休みといえば部活動に専念しているやつにとっては合宿なり、大会なりがある重要な期間だ。それだけでなく夏のイベントもあるのだから、さぞ充実しているのかもしれない。


 それに引き換え、俺は部活動には参加していないし基本的には一人の時間が多くなる。それなのにも関わらず、こうして夏休みに何かしら時間を作ってくれようとする友達を持っているのだから幸せなのかもしれない。


「じゃあ、俺も帰るか」


 教室内にいる他の生徒にじゃあなと声をかけ俺もまた教室を後にする。

 部活動に行くわけでもない俺にとってはこれから向かうのなんて家くらい。

 自分の空っぽさのようなものを感じさせる軽いカバンを肩に背負って家路に着いた。





 明日から夏休み、そんな高揚感のようなものを感じていた放課後だったが。家への帰り道ではふと一抹の寂しさのようなものも同時に感じてしまう。


 正樹も、悠里も、美織もそれぞれがそれぞれのコミュニティに所属していることもあって俺ら意外との付き合いも当然ある。そんな当たり前なことなのに、意外にも寂しさを感じてしまう自分がいた。


「意外と俺って寂しがり屋なのかもしれないな」


 なんて、思ってもいないことを呟いている。


 去年の今頃にはきっと沢山のやることで埋まっていた。それも相まってきっと何も決まっていない夏休みに空虚感を抱いているのかもしれない。



 ……とそんな折のことだ。



 イヤホンを耳に音楽を聴きながら歩いていたスマホに通知音が鳴り響いた。


 一応誰からのメッセージなのかだけ確認してみると、そこには普段から仲の良い……というか先ほどまで一緒にいたはずの美織からメッセージが届いていた。


 中身を確認するのは家に着いてからでもいいか。


 そう判断した俺はそのメッセージに既読をつけることなく、家までの道を少しだけ急ぎ気味に帰ることにした。

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