第13話 週末カッフェ
作戦会議と銘打ってカフェでお茶しているものの、俺の目線は少なからず普段とは様子の違う美織の服装に目がいってしまう。
……いや、目がいっているのは服装だけじゃない。
普段とは違ってうっすらと施された化粧や、ぷっくりとした涙袋がアイシャドウのラメによってキラキラと輝いていてどれもこれも綺麗だった。
そんな大人っぽさ満点の彼女に視線がどうしても行ってしまい、落ち着かないことこの上ない。
「な〜んか、恥ずかしいね」
少し俯きがちながらも、そこからこちらを伺うような上目遣いが俺の心を射抜いてくる。普段の美織からは想像もできないほどの、小悪魔的なやり取りにどぎまぎとしてしまう。
彼女がいたとはいえ、俺の交際経験は実菜のみで、その実菜とは女子としてのタイプがそもそも違う。
タイプが違うと言うことは、経験値は無いに等しい。
相手の思考も趣味も、好き嫌いも、どれもこれも長い時間の積み上げで理解することができるわけであって、いま美織が俺に対して見せてくる行動の一つ一つにどのくらいの意味合いが含まれているのかなんてことは、美織の心の中を覗くくらいでしか理解することは叶わないのだ。
実菜のことだって長い時間の積み重ねによって、少しずつ女子というものを理解できて来てたことによって四年という時間を共に過ごせたわけだ。
それに長く続いているからといって、それがイコール恋愛力になるかと問われれば難しい。
だってそうだろう。
同じ女性だって性格は千差万別なのだ。人には人の乳酸菌とかいうあの有名なキャッチフレーズでは無いけれども実菜にはない女の子っぽさが美織には存在する。
それは、長年触れることのなかったベクトルの女子女子しいもので、今の俺に最も突き刺さるようなものだった。
「ねえ〜! 話聞いてる〜?」
なんてやさしく叱るような口調でこちらに声をかけてくる。
「ごめん、考え事してた」
「もうっ! せっかくのお出かけなんだし、こっちに意識を向けてもらわないと〜!」
ぷくっとリスのように頰を膨らませている。そんな様子が愛らしく見えてしまう。
「それじゃあ、今日最初の目的地はどこにしようか?」
といっても、俺らにある選択肢なんて限られているわけだが……。
俺が住むこの街は正直言って田舎だ。
そのため週末に限らず、平日であっても大体の奴らが学校終わりに買い物に行く場所は数カ所に絞られてしまう。
そうなると、もしかしたらたまたま出かけて買い物に来た悠里と鉢合わせるなんてことも普通にあり得る話。だからこそのこの行動時間ってわけだ。
「やっぱ定番はアオンだよね」
「まあここらの中心にあるからアオンになければそのままバスで別な所に行けばいいわけだしな」
「うん。だから最初の目的地はアオンにしようよ!」
「おっけ」
話がまとまったところで、俺の飲んでいた飲み物も丁度空になる。
空いたプラスチックのコップをゴミ箱に捨て、美織を引き連れ店を出る。
「バスすぐ来そうでよかったね!」
「そうだな」
というか、近い……。
店を出てから美織は俺と肩と肩が普通に触れ合うくらいにすぐ横に場所を取っている。
もちろんバス停には他にも待っている人もいるということを考えればとても環境に優しいことをしているのかもしれないが、俺の精神的な環境まで慮ってはくれなかったようだ。
こうしていると、いやでも前回みんなで遊びにいった時のことを考えてしまう。
バスがぷーとブザーを鳴らしドアを開く。
「行こっ!」
俺の手を引いてバスの中へと入っていく。そのまま俺は美織に促されるまま二人がけの席に腰掛ける。
バスがついたときになったブザーの音でバタンとドアが締め切られた。
今思えばその音は、これから始まる波乱な一日の幕上げとなる開演のお知らせだったのでは無いかもしれない。
そんなことも知らず俺は、走り出すバスに身を任せる。
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