第3話 自分の気持ち


「それならさその駿の彼女に、私を推そうと思うんだけどどう思います?」


 夏の暖かい風が彼女の言葉を俺の元まで運んでくる。


「推すってどういう……?」


 自分でもわかるほどにこの発言は逃げの発言だ。

 ただ、悠里の一件もある、安易な返答はできない。


 だからこそ、彼女の言葉の本来の意味を知りたい。それが俺の恋人になりたいという意味を含んでいるのか、それとも単なるおふざけなのか……。


「もちろん、おふざけなく私が駿の彼女になりたいっていう告白」


 彼女は自分の気持ちを隠すつもりもないようで、まっすぐに俺を見つめ答える。

 小学の頃に憧れて居た女の子、そんな女の子とまるで運命かのような再会……だけど——


「ごめん、その気持ちは嬉しいけど今はその気持ちに答えられない」


 心苦しくなりながらも彼女に対して今できる精一杯の返事を返す。

 だけど、なぜか彼女はその真剣な表情に笑みを浮かべる。


「なんかよかった」


 そう答えた。

 なぜだか答えたはずの俺よりも彼女の方が満足したような様子に戸惑いを隠せない。


「なんで、そんなに嬉しそうなのかって顔してるね、すごく顔に出てるよ!」


 ケラケラと笑うその姿は、どこかあの頃の彼女の姿と重なった。


「もちろんさっきの私の言葉に嘘偽りなんてないからね! 別に今でも想いは変わってない。だけどなんていうのかな、駿に彼女が居たって聞いて私の中で今の駿は昔の駿と変わってしまったんじゃないかって不安もあった。もしこの告白に二つ返事で駿が答えてたらきっと私はあの頃の駿じゃなくて今の、久しぶりに会った駿と付き合ってたのかもしれないなって思っちゃった」


 なんとなくだけど、椎名の言いたいことがわかる。

 だから、これ以上は何も言わない。


「それに……さ! 今回の告白は先制パンチのようなものであって本番はこれからだから! まだまだ諦めたわけじゃないからね!」


 ウィンクをひとつ決める。


「うん。わかった」


 それから小一時間ほど会話を交わし俺らはそれぞれの帰路に着いた。

 濃密な時間にも感じた学校帰りも、思い返してみればほんの数時間の出来事で、なのにその数時間の間にギュッと詰め込まれたものの多さに驚いてしまう。


 今でもまだ、自分の胸はバクバクと高鳴ることをやめない。


 悠里にしろ、椎名にしろ、自分に近しい存在であるはずの彼女らから好意を向けられている。そんな自分の現状を少し誇らしく思うと同時に、少なからずその気持ちに答えられなかった椎名、まだ答えを出すことのできて居ない悠里に対し、申し訳なさも感じてしまう。


 無論このままでいいはずがない。


 だから、近いうちにはちゃんと自分の気持ちと決着をつけなければいけない。

 思いを巡らせていると、いつの間にか自分の家までたどり着いて居た。


 いつもは長く感じているはずなのに、今日はやけに早く感じた。

 だけど、その間にある程度の整理がついた。

 しっかりと自分の気持ちを悠里に告げよう。


 まるでここ最近のモヤモヤを晴らすかのように、俺を出迎える玄関の戸がバタンと小気味の良い音で出迎える。

 それはまるで僕の背中をひっぱたくかのようで、どこか頼もしく感じた。

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