第2話「私を推そうと思うんだけど……」
午後の授業であった各自の練習を終えた俺らはその後解散しそれぞれ帰路に着いた。
なんと大変なことに悠里や亘理くん、正樹などは部活動の練習のため、先ほど流しきったはずの汗を再度流しにそれぞれの部活動先へ向かう。
俺は今現在部活動に所属していないので家に帰るという活動のため汗を流しながら自分の家までの帰り道を歩く。なんと熱心に部活動に励んでいることだろうか。
そんなことを考えながら家まで向かっていると、対面の方向からなにやら見知った影が迫ってくる。
「おーい! 駿!」
そこだけに風が吹いているのかのように長い髪が揺れている。
風なんて吹いていないのにその光景を眺めているだけで真夏ともいえるこの暑さが
「おう、珍しいな椎名も学校帰りか?」
「そうとも言えるんだけど、どちらかというと駿を待っていたって感じかな?」
そんなことをさらりと言ってのけるのは、彼女本来の性格のようなものが戻ってきたからなのだろうか……。
「何か用事でもあった?」
「うん、ちょっと聞きたいことがあって! 時間頂戴!」
それだけ言って背を向ける。
足を大きく前に振り出して一歩、一歩と歩みを進める。
その背中がとりあえず私についてきてと言っているように感じて、何も言わずにその後を追った。
結局そのままたどり着いた先は先日俺が向かった河川敷、なにかとこの場所に縁があるななどと感じながらただただ前を歩く椎名の足が止まるのを待つ。
「さてっ……と、ここら辺でいいかな!」
下まで降りられる階段、その中腹あたりで腰を下ろす。
静かに振り返った彼女は俺の顔を見つめ、その横のあたりをポンポンと叩いた。どうやらお隣どうぞということらしい。
「それで、用件も伝えずにこんな場所までどうした?」
ザバザバという川の音が涼しげな風をここまで運んでくる。
「ん~、正直聞きにくい話題なんだけど……」
「どうした……?」
「駿に彼女がいるんだって?」
小首を傾げ、上目遣い気味に問いかける。その姿が様になっているのは彼女の髪がきっと長いからだろう。
「ああ、いたな」
「いた?」
「うん、ってかそれ以前になんでそんなこと知ってるの?」
「それは友達に聞いたからだよ!」
そりゃあそうか、そうだよな……。
この町に複数ある高校のうち特に近い
それに、俺ら二人の共通の小学校の生徒だっているだろう。
「別れたんだ、つい最近」
別れた……その単語がすんなりと俺の口から出てきたことに少し驚いていた。美織の時は決着がついていなかったからか、言うことに躊躇いのようなものを感じていたのに今はまるで息をするかのように自然とその言葉が口から出ていた。
それと同時に、自分の中でこの問題に決着がついているのだと認識させられる。
「そうなんだ……そっか~あの駿に彼女がいただなんて…………少しだけ出遅れたな~」
少し困ったような、そんな表情を浮かべて俺を見つめる。
ただ、そんな表情とは裏腹にその瞳になぜだか強い意志のような物が宿っているように感じる。なんだか表情と瞳から感じられる感情があべこべで、どちらが彼女の本心なのかがいまいち読み取れない。
「それじゃあさ、今は彼女いないってことだよね?」
「ああ」
しっかりとした声で俺はその問いかけを肯定した。
「それならさその駿の彼女に、私を推そうと思うんだけどどう思います?」
そんなある種、爆弾のような発言を彼女はこの場において言い放ったのだ。
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