第25話 休日
結局その日、俺と悠里との間にそれ以上の何かは起こらなかった。
俺自身起こすつもりも無かったし、彼女も彼女でまた俺の意思を汲んでくれているからかなんのスキンシップをしてこなかった。
そして翌日、俺は週末という大変喜ばしい日である筈なのに、浮かれた気分なんてこれっぽっちも無かった。
ここ最近色々ありすぎて俺自身すっかり忘れていたのかもしれないが、まだあれだけの出来事が起こってからたったの三日、その日を含んだとしても四日だ。まだ木曜が一周もしていないのだ。
複雑な感情が俺の中でぐるぐると、色々な感情をごっちゃ混ぜにして渦巻いている。
実菜のこと、悠里のこと……。
きっと昨日、なにもせず過ごしていたのなら今日この日を、実菜との記憶を回顧する時間として活用されていたことだろう。
そんなはずなのに、今俺が考えていることはその実菜のことではなかった。
無論、実菜のことも考えていた。考えていたけれども、それよりも強烈な、強烈な記憶によって上書きされていた。
「はあぁぁぁぁぁぁ……」
長いため息がでる。
この状況を少しでも予想できていたのであればもっと色々考えることが出来た。
恋は盲目とは言うけれど、俺からしたら恋は猛毒だ。
人は風邪やインフルにかからないようにワクチンを接種する。毒には毒で耐性をつけているわけだ。
もし仮に恋が猛毒なのであれば、いったい何で耐性をつければよいのだろうか。
恋に効く薬は恋なはずが、恋によって新種の毒を打ち込まれたようなそんな気さえする。
悩みに悩むけれど、横になった体で考えていても次から次に色々なことがあふれ出すだけで一向に整理がつく様子を見せない。
「コーヒーでも飲むか」
リフレッシュも兼ねていつもより遅い朝九時、部屋のベッドから降りた。
「「おはよう駿」」
今日が日曜日ということもあって、両親が家に居た。
俺の考えを読んでくれていたか、コポコポとコーヒーメーカーがお仕事をしていた。
「コーヒー入れているけど駿も飲む?」
「うん。もらう」
丁度淹れ終わるタイミングだったのか、コーヒーのほろ苦さを感じさせる香ばしい匂いがテーブルに座る俺の元に届く。
はあ、起きてきたものの色々な感情はやはり今もぐるぐると俺の頭に巡っていて知らず知らずのうちにため息をついてしまう。
「どうした? 悩み事か?」
そんな俺に気づいたのか、父さんの方から俺に話しかける。
家族仲は別に良好、むしろ尊敬しているまであるけれど、何故か俺と父さんが面と向かって話すことは多くない。
俺も俺で多感な年頃だから、親と仲良くしているということに照れのようなものを感じていたからか、上手く何を話していいのかが分からない。
親というものと、どんな話をすればいいのだろう。誰か親と仲のいい方。同性の親との付き合い方を教えてほしい。心の中で本音を吐露しつつ親と向かい合う。
どうせ、そのうち話さないといけないことだ、早く話しておくに限る。
「あのさ、父さん母さん」
ああ、もう! こういう話題を親に話すのってなんだか恥ずかしい……。
こそばゆいというのか、なんと言えばいいのか……。
「どうした?」
「俺、実菜と別れちゃった……」
「「?!」」
二人揃って驚いているのが分かる。それだけ両親にとっても衝撃の話題だったのだろう。
「……そうか」
「うん」
まず先に口を開いたのは父さんだった。
「まあ、お前が一番きついだろうことは分かっているから特に色々言うことも無いだろうけど、若いんだ色々あるさ」
「うん……」
色々……か。
「父さんと母さんだって一度別れたこともある。それくらいに別れるってことは普通にあることなんだぞ」
「えっ?!」
衝撃的だった。そんなこと初めて聞いた。
「今はまだ割り切れないのかもしれない。だけどそのくらい別れるなんて普通のことなんだ。だから深く考えすぎるなよ」
「ありがとう父さん」
「ああ」
なぜだろう、普段から話さない父という相手がものすごく大きな存在に感じた。
逆に普段から話さないからこそ、父の言葉が含蓄あるもののように思えた。
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