第14話 十五分間
たった十五分のバス移動のはずなのに体感時間ではとても長く感じる。
バスは、定められたルートをいつものよう走り、乗る人を乗せながら進んでいく。時間だって決められた通りに正確に進んでいる。
それなのに、こんなにも時間が長く感じられるのは俺が変に隣を意識しちゃっているせいなのだろうか。それとも神様は俺にだけ時間の進みが遅くなるような魔法でもかけたのだろうか……。
人が隣で悩んでいるのにもかかわらず、何が楽しいのかその悩みの元凶は隣でふんふんと鼻歌を奏でながら、右へ左へと頭を揺らす。美織は一体何を考えているのだろうか。
「どうかした?」
目線がパッと合ってしまう。気まずい……。
「いや、なにも……」
「楽しみだね!」
「そうだな」
ぱしゃあとドアが閉まる。その音と同時に俺らの向かうゲーセン前最後のバス停を出る。
ピンポンと音が鳴って俺らの目的地をお知らせする。
「うぉしゃぁぁぁ!」
後ろの方から激しい悠里の声が聞こえると同時に、「次停まります」と機械音声が聞こえる。後ろを向くと勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「ゲームはもう始まっているんだよ!」
ビシッて音と集中線が見えてきそうだ。周りに人がいなくて良かった。
久しぶりに後ろを振り返った気がするが、悠里の隣に座っている実菜は俺をキッときつく睨んでいる。そのまた隣に座る正樹に関しては何事もないように船を漕いでいる。そのまま置いてくぞ。
何はともあれ長かったようなバス旅も、元々の予定通りきっちり十五分で着いた。
ゲーセンと一括りで行っても、ここは大型アミューズメントパーク、天下のラウ○ンだ。遊びに困るようなこともないだろうし今日一日は楽しめそう。
いくら正樹とゲーセンに行っていたとはいえさすがにここまでの大きいところにはなかなかこない。せいぜい近所のゲーセンがいいところだ。
だからこそ俺も正樹も今日という日を少なからず楽しみにしている。正樹の転寝もきっとそれが理由なんじゃないだろうか。
もう、目の前に建物が見えてきた。
「それじゃあ、行こうか」
「うん!」
隣の美織が笑った。
俺もそれに答えてにこりと笑顔を返す。俺らが立ったところを見て後ろの二人も立ち上がる。丁度通路の前に座っている正樹を跨いで俺らのところまでやってくる。
「さあ行くぞー!!」
「いくわよ」
「ああ」
二人が先陣を切って降りていく。それに続いて美織が……。
「おーい、置いてくぞ正樹!」
ガクンと船が揺れ正樹の目が開く。
「うおおっ!?」
去り行く俺らを見て急いで駆け寄ってくる。
どうやら何とか大丈夫だったようだ。ていうか、俺もそうだけどあの二人起こしてやれよ……。
彼女らも彼女らで日頃から恨みを持っているのかもしれない。こいつの近くにいたらいつか刺されるかもしれない。気をつけよう……。
屋内に入ると周囲は音で溢れる。
「なんか遊びに来たな~って気がするな!」
「確かにな」
「ねねっ! 何する何する?」
「なんだかんだ友達と来るの久しぶりかもしれないなぁ」
と俺を含めた実菜以外の四人はこの空気感にウキウキとした表情を見せる。
四人の表情とは違って。実菜はというとどういう反応をすればいいのか分からないといった表情をしている。普段からこういう場所に来慣れていないからってのが一番大きいのだろう。
「あのさ悠里……」
「大丈夫、分かってるから」
俺の視線から意味を悟ったのか小さく頷く。普段からこういう場に来ない人からすればどうやって遊んでいいのかわからないのだ。
「まずはみんなで上にスポーツしに行こうぜ」
「そうだね、体動かしたい気分! 美織と実菜ちゃんも一緒いこっ!」
両手で美織と実菜の手をとって走り出す。その際ウィンクされた、きっと任せてよって意味なんだろうな。
「そいじゃ、俺らも行くぞ」
「おう」
俺達も後を追いかけるように歩き出す。
今はみんな笑顔でいられる。それが少しだけほっとした。
体を動かせば気が紛れるし、何も考えなくて済む。今だけは小休止の時間であって欲しいと思う。
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