第15話 スイング
「すごいわね」
「……だろ? お前が来ようとも思わなかったこういうところには実はこういう施設もあるんだぜ」
「知らなかった」
それだけいって女子の輪に混ざっていく。
屋内には皆ご存知の通り、バドミントンやバレー、バスケと色々なスポーツのできるコートがある。それだけでなく奥まで行けばストラックアウトやバッティングセンターと同じ設備があり色々と遊べる。
「なあ駿、俺と一勝負しようぜ!」
テンションがあがったのか声がワントーンくらい高い正樹が俺の横に並ぶ。
「ああいいぜ、やるならジュース賭けようぜ」
「乗った」
「それなら女子にも聞いてみようぜ――なあお三方?」
「なーにー?」
「今から俺と正樹が対決するんだけど見学しに来ない?」
「おもしろそー!!」
「じゃあちょっとこっちまで来てほしい」
女子をぞろぞろと引き連れている俺はいいご身分だなとか思いながら正樹の元に向かう。
「んで何で勝負する?」
「そうだな……」
俺は周囲を見回し正樹と勝負になりそうなものを探す。
「じゃあ、バッティングで」
「おっけー」
現役でバドミントン部に入っている正樹とテニスやバドの勝負はもってのほか。となればそれ以外で勝てそうなものを探すしかない。
ただお互いの勝負が運任せになるのもそれはそれで実力で勝った感がないのでここは俺に一番勝ち目がありそうなバッティングを選ぶことにした。
それなりにバッティングセンターで遊んだことがあるし、他の種目に比べて実力はどっこいどっこいなんじゃないだろうか。
「よし、じゃあ女子は俺と駿のどっちが勝つか賭け――」
「駿ね」「駿!」「駿君で」
「お前ら俺のこと嫌いすぎだろ?」
「いや~なんていうか純粋に駿が勝つところを見たいし」
「駿君がんばれ~」
「じゃあ、お前ら俺が勝ったら全員一本ずつジュースだからな!!!!」
「なんか俺にかかるプレッシャーやばくね?」
「負けたら承知しないぞー!」
じゃんけんの結果、俺が先攻で正樹が後攻となった。
「じゃあ先攻いきまーす!」
「「「がんばれー!」」」
それぞれ違いはあれど黄色い声援を背に受けながら打席に立つ。しっかりとバットのグリップを握るが使い込まれているものだからか少しだけ滑る。ただ、自分さほど問題はない。
「よおし」
投球開始のボタンを押す。
球のスピードはそれほど速くない、問題はどれだけ前に飛ばせるかだろう。
一球目のタイミングにあわせるようにバットを振るがバットの重さになれていないせいか少し振るのが遅れてファール。この勝負は球を当てたかじゃない、前に飛ばした数での勝負なのでこの一球は地味にイタイ。
「ふっ」
呼吸を吐き集中力を高める。中学の頃からの俺の集中方だ。
がやがやとした音などを一旦忘れ、目の前から飛んでくる球だけに意識を向ける。
そんな時、後方から「あっ」と声が漏れた。
だけど今はそれに集中を奪われるわけには行かない。なぜなら今の俺は俺へと向かって飛んでくる球に全集中している。
「ふっ――」
腰にひねりを加えバットを振る。さっきより良いスイングだ。そう思ったときには音が応えてくれてた。
カキンと金属バットが鳴く、そのボールの行く先は前、球が飛んでくるところより少しだけ高い位置に飛んだ。
「よし一本目!」
俺がそう呟くと後ろで「おぉ!」と声が聞こえた。だけど球は
その間俺は集中力を切らすことなく全二十球を何とか終えた。
「お疲れ駿! かっこよかったよ!」
意外だったのはいの一番に駆け寄ってきたのが悠里だったことだろうか。
悠里に「せんきゅ」と告げ、ドアを抜け皆のもとへ戻る。
「よう、おつかれ!」
「お疲れ駿君!」
「せんきゅ」
その彼女は、視線を未だボックスの中に向けている。けれどそのはずなのにどこか違うところを見ている気がした。
――まあ、知ったことじゃない。
一旦ベンチに座ると、今度は俺の対戦相手が意気揚々とボックスの中に入って行った。
「っておい! 俺には応援の言葉ないのかよ!?」
一人でツッコミまで入れる始末だ。
「はいはい頑張ってー」
「
そんな心の無い声援に一人打席内で
新たな人が入ったことでようやく我に戻ったのか、薄情な女は俺を見て「お疲れ」といった。
一応とはいえ言葉をかけてくれたのだから俺もちゃんと返事をしようと思って「おう、ありがと」と返しておく。
打席内に立つ正樹の一球目は空振り、一応スイング自体は日頃から部活で体を鍛えていることもあってできているが、バットは飛んでくるボールよりも遅れて振っている。
そうして二球目も今度は低く振って空振り、どうやら部活がらなのかスイングが下からら上へと少しだけ弧を描くように振っている。これじゃあいくら手元に来るタイミングで振っても遅れて振ることになるし、本当にやりこんでいる人でないと打ち返すことも一苦労だろう。
結論から言うと六球目が過ぎた辺りで俺の勝ちが決まった。
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