第9話 少しの後悔と感謝
花柄の入った紺色のワンピースに身を包んだ、俺にとっては久しぶりの対面となる人物がそこに座っていた。
堂々と言うか、何も変わらないいつもの彼女のように、ただ綺麗に、あの頃のままの強さのようなものを感じさせる。
「(嘘だろ……なんで……)」
時間はまだ集合時間の二十五分前、九時三十五分。彼女がここにいる理由を仮に遊ぶためと仮定してもこんなに早く着いてるなんて思いもしなかった。
編みこみの入ったハーフアップ。薄っすらとした化粧、それだけで少なからず時間がかかっているということが
まるでそれは、実菜と付き合っていた時の俺の行動のように……。
学校に行くのだって俺が迎えに行かないと、登校時間ギリギリにやってくるような彼女が。自らの努力で今、ここでみんなを待っている。
「実菜……お前なんで……」
「私も正樹に誘われたから」
考えてみれば当たり前のこと、誰かが誘わない限り彼女がこの時間に待ち合わせだということすら知らない。
「問題ないでしょ? 私にとってもあの三人は友達なんだから」
「そりゃあそうだ」
「それとも何? 私がいるとダメなやましい理由でもあるの?」
「いや、別に?」
多分だけど彼女らしさのある皮肉を俺に浴びせていたのかもしれないが、そんなこと今の俺には頭に入ってこず。その時の俺の思考は、久しぶりにこいつの声を聞いたような気がする。なんてことでいっぱいいっぱいになっていた。
「それにしても、駿はいつもこんなに早く来ていたのね……。きっと私との約束の時もこれだけ早く来て私のことを待っていてくれたのね」
「そんなのわかんないだろ?」
「ええ……だけど、普段からこのくらいの時間に来ていないと、その髪……ちゃんとできないでしょ?」
実菜は俺の目より少し高い位置、髪をぴっと指差す。どうやらこればっかりは否定しようがない。
普段の格好でこの場に現れていたのであればたまたまのようにも感じるのかもしれないが(それでもこいつは絶対に考えを変えないだろうけど……)今日に至ってはオシャレを決め込んでこの場に現れている。それだけ早くから準備していたことが分かってしまうし、否定の仕様がなかった。否定するつもりは無いけれど。
すると思いがけず、彼女は俺に頭を下げた。
「その、ちゃんと言えなくてごめんなさい。私を待っていてくれてありがとう」
「何だよ急に」
あまりに突然の感謝の言葉に驚きを隠せない。
だって、それはいつも俺の仕事だったから。
「私はいつも当たり前のように感じていたから」
「それは俺だってそうだよ」
俺だって驚かされたんだ面食らえ。
「今日俺がちゃんとしたのもいつものお前の頑張りに対して全然見合ってなかったなって思ったから気持ちを入れ替えたからで……」
真剣な俺の表情に真剣な表情で返してくる。だから俺も変に茶化さず素直な気持ちで返そう。
「ありがとな、今まで」
「……そう」
ちゃんと言葉にしたことで俺らの間に気まずいムードのようなものが流れる。
暫く二人きりで会話なんてしていなかったんだ、すぐにあれこれ話題が出てくるほど、この状況に順応できていないし、なによりそんな胆力も無い。
今だって心臓がはち切れんばかりに必死に全身に血液を送り込んでくれている。バックンバックンだ。
「ねえ――」
「――あれ、二人とも早かったね」
実菜が何かを呟こうとした瞬間、俺らの背後から今日のメンバーの一人。俺の予想通り集合時間よりも早く美織がやってきた。
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