第8話 おでかけとオシャレ
週末……といっても次の日だが、学校のある平日よりは遅い、だけど休日として起きるのにはやや早いくらいの午前八時に目を覚ます。
アラームをセットしたスマホにお仕事をさせることなく、自らの感覚で起き上がる。
せっかくのお仕事を邪魔してしまった罪悪感のようなものを感じていたがいいお休みの機会だと思ってここ数時間は休んでいただきたい。どうせこの後一杯働いていただくわけだし。
充電器を
朝食は用意されていなかったのでトーストとスクランブルエッグで済ませる。コポコポとコーヒーメーカーの鳴らす音を楽しみながら優雅に朝食を取る。
それだけでなんだか休日を満喫しているような気分になるんだから俺って人間は単純だな。
約束の時間は午前十時、今から準備したとしたら相当時間が余ってしまいそうだ。
ただ、なんていうかいつもの癖なのか俺の足は風呂場の方へと向かっていた。結局今日も準備が早く終わりそうだ。
シャワーを浴びている間は余計なことを考えずに済む。特に今の俺にとってはシャワーの流れる音が俺の中にある気持ちのもやもやみたいなものまで流してくれるようで余計にさっぱりしている。流れちゃいけないようなものまで流れていってしまうんじゃないかと心配になる。
そんな変な心配をしながら浴室から出る。
普段であれば髪を乾かして終わりにしてしまうがそれだと時間が余ってしまう。そう考えた俺の視界にある電化製品が映る。
「久しぶりにやってみるか……」
シャンドレのコンセントに挿し込み十分な温度になるまで待つ。その間、SNSや動画で自分のしたいセットのやり方などを調べる。そしてなんとなくイメージを持った辺りで赤く点滅していたボタンが緑に変わる。
一瞬だけ熱くなった後に自分の髪がまっすぐになる。それから外にハネたり内に巻くように髪をいじる。思うように行った部分もあれば少し納得のいかない部分もあるが本当に久しぶりだったということを考えれば及第点なんじゃないだろうか。
棚からワックスを取り出し全体に馴染ませて形を作り上げる。最後に全体にサッとヘアスプレーを振りかければ完成だ。
「意外と様になるもんだな」
自分の容姿に対して別に自信があるわけでもないが少なからず周りから見て恥ずかしくないレベルには整っているのではないだろうか。
そう言えば、いつからかあいつの前でこんなにしっかりとした格好をしなくなっていたのかもしれない……。あいつは俺と会うときでも化粧を
それなのに俺の方はいつからか、自分のことを高めようとはしなくなった。
……はぁ、そりゃ不満も溜まるわな。
俺に可愛いと言ってもらいたくて努力をしているのに、その言われたい相手はその自分に対しそれ以上を見せてくれない。そんなんどれだけ上手くいってたっていつか不満も溜まる。そんな簡単なことすら見誤っていたのか。
俺がするおしゃれなんてたった十数分でできる。それに対しあいつのやってたことは……。
「俺も、これから頑張るか……」
心を入れ替える決心をする。
「そろそろ家を出てもいいかな」
時計を確認する。時刻は九時半手前、今から行けば少なからず二十分前には待ち合わせ場所につけるだろう。
あまり人を待たせたくない俺にとってはいい感じの時間だろう。
「それじゃあ、行きますか」
家の中には誰もいないがなんとなく決意を込めて言ってみた。
「行ってきます」
なんだか気合が入ったような気がする。
外は快晴、六月も後半に入り日差しの強さと外の暖かさが比例してきている。これが冬だったならば最悪だと思っていたことだろう。
時期的には熱くなり始めたばかりの季節で、まだこの暑さを懐かしいくらいに感じられる。これがもう少し先になれば、なんだよ暑すぎだよ……自重しろくらいに思ってしまうだろう。
暖かい外の空気とは別に、さわさわと葉と葉が触れ合う自然の音、少しだけ涼しい風がいい感じに打ち消しあってくれて大分過ごしやすい。
俺らが今日の集合場所とした場所は俺の家から歩いてそう遠くないお店だ。お店といってもカフェとかそういうのではなくショッピングセンターといったように何店舗か入った施設だ。
そのため待ち合わせ場所はどこどこの店の辺りと決めてある。
待ち合わせ場所までもう目前となったわけだが、誰か一人くらいはいるのだろうか……?
悠里は……ないな。あいつは時間ギリギリ、もしくは時間をちょっとすぎてくるやつだ。じゃあ、正樹……あいつはもっとないな。何なら寝過ごして先に行っててくれってパターンも考えられる。最後に一番可能性があるのが美織だろうか? 高頻度で遊びに行ったことがないけど普段の性格からして時間よりも前に来るような気がする。それにしたって今の時間は二十五分前で、俺が普通に早く着きすぎだ。予定よりも五分早くついた。
「何すっかな~」
まぁ誰もいないことは予想済み、一応確認はしてみるがまぁまず誰もいないだろう。
入り口の自動ドアを抜け、店内に入る。ちょっとした休憩場となっている辺りに歩みを進める。
「「……あっ」」
俺の予想とは裏腹に、その場に一人誰よりも早く到着していた奴がいた。
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