第18話 グリズリーから馬車を守る

「ふわぁ~、眠い」


 俺達は今、フォイルから出てDランクのダンジョンがあるというルンブルクに向かって歩いているところだ

 ルンブルクはフォイルから北東にある都市らしい。


 あ、ちなみにソニアから聞きました。

 俺は知らないことだらけなんだな、と最近痛感している。


 2日は歩くということなので、食糧を買い込み、バックパックと《アイテムボックス》に入れた。

 一応、余裕を持って3日分の食糧を買ってある。


「この辺は温厚な魔物しかいないので、安心してルンベルクを目指せますね」

「へぇ~、これが普通だと思っていたけど、その口振りだと危険な魔物がいる地域もあるみたいだな」

「はい。地域によって大気中の魔素の濃度が違うので、濃いところは強い魔物が生まれやすいですね」

「やっぱり育ちが良いと知識の量が違うな」

「そんなことないですよ。ロアさん、すごく頭良いじゃないですか」

「まぁ頭の良さと知識の量は違うからなぁ〜」

「……もう、調子に乗らないでくださいよ」

「ソニアがちゃんと反応してくれるから、つい乗ってしまう」

「んー、それは悪い気はしないですね」

「だろ?」

「はい」


 しばらく歩いていくと、遠くから声が聞こえてきた。


「誰かァァ〜! 助けてェ〜!」


 女性の悲鳴だった。


「前方から何かこっちに来てますね」

「馬車みたいだな。何かに追われてるのか?」


 見ると、馬車は熊の魔物に追われていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『グリズリー』

 討伐推奨レベル:130レベル

 ランク:D


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 キングフロッグと同じぐらいの強さか。

 じゃあ勝てるだろう、と平気で思ってしまう自分がいた。

 こういうところで調子に乗るのは良くないと思う。

 慢心しないように気をつけよう。


 ……って、アレ?

 ここ温厚な魔物しかいないんじゃなかったのか?


 ……まぁいいか。

 助けてあげればお礼に馬車に乗せてくれるかもしれないし、出会えたのはある意味ラッキーだ。

 経験値も稼げるしな!


「ちょっと助けてやるか」

「……って言ってもDランクならロアさんが一撃でやっつけちゃいそうですね」

「ああ、でも一撃で倒せないときは頼りにしてるからな」

「はい、任せてください」


 よーし、グリズリーがこちらに向かって走ってきているなら好都合だ。

 詠唱時間が十分に稼げる。

 俺は道から外れた平地に移動する。

 この角度なら、グリズリーをよく狙うことが出来る。

 そして、グリズリーが馬車に追いつきそうなタイミングを見計らう。


「《豪火球》」


 俺は詠唱を始めた。

 かかる時間は3秒。


「ひィィ〜〜〜! 殺されるゥゥ〜!」


「グワアアアアアア!!!」


 グリズリーが馬車に飛び掛かり、速度が限りなく遅くなった今。

 このタイミングなら《豪火球》は絶対に外さない。

 ──3秒経過。


 直径1mほどの巨大な火炎の球体が放たれた。


「グオオオオォォォォ…………!!!!」


 グリズリーは焼け焦げた。



『自身のパーティよりも強い敵を倒したため、経験値が加算されました』

『レベルが2上がりました』


あ、レベルも上がったわ。

これで81レベルか。

ソニアもレベルが上がって、84レベルになったようだ。


「ええ!? グリズリーを一発!?」


 馬車の主が驚いていた。

 そして、グリズリーに魔法が直撃した際に馬車にも火が燃え移っていた。


「ぎゃああああああああああああっ! 私の馬車がああああああぁぁぁぁっ!」


 また悲鳴があがる。

 まだ燃え移って間もない。

 これぐらいの火なら生活魔法の《飲水》で消えるかな?


 馬車が燃えてしまっては困る。

 移動時間短縮の為にもここは消してやらねばならない。



「《飲水》」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 《飲水》

 消費MP:1×100ml

 効果:消費したMP分の飲水を出すことが出来る。

 属性:水

 詠唱時間:0秒


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 火の勢いが強くなる前に消してしまおう。


 ジョボボボボボボボボ。

 プシュー……。


 ……消えました!


「ありがとうございますゥゥゥ! 貴方は命の恩人っす!」


 馬車の主は飛び降りてきて、涙を流しながら俺の両手を握った。

 茶色をした背の小さな女の子だった。

 子供……だよな。


「なに、人として当然のことをしたまでだ」

「こんな人に巡り合えるなんて、めちゃめちゃ幸運っす! ほんと生きてて良かったっす……うわあああああん」


 女の子は涙を手で拭って、また俺の手を握って泣いている。


「あなた、命の恩人に対してそんな失礼なことをしてはいけませんよ。涙を拭った手でまた握手するなんて汚いじゃないですか」


 ソニアが少し不機嫌そうに言った。


「ひゃっ!? す、すみませんっす!」


 そして女の子を俺から離した。


「これで涙でも拭いてください」


 そう言って、ソニアは女の子にハンカチを渡した。


「うぅ、申し訳ないっす。ありがとうございます……」


 女の子はソニアから渡されたハンカチで涙を拭った。


「さて、本題といこう。俺達は君の命を救ってあげた。つまり、君はそれに対して報いる必要がある。分かるな?」

「え? あ、はい。そうっすね」

「よし、じゃあ俺達をその馬車でルンブルクまで乗せて行ってくれ」

「全然オッケーっすよ! 私、ルンブルクに行こうとしていたので!」

「それは好都合だ。おい、ソニア! これで歩かなくて済むぞ! 馬車ゲットだ!」

「……ははは、そうですね。もしかしてロアさん、この為に助けたんですか?」

「半分は親切。もう半分は打算だ」

「……素直ですね。まぁそれでも助けたことに変わりはありませんので」

「ふふ、まあな」


 俺は自慢げに鼻の下をこすった。

 素直だなんて、照れるな。


 まぁ何はともあれ、これで予定より早くルンブルクに着きそうだ。

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