番外 荒れてた小学生

 令和の今から四十年以上前、俺が小学四年か五年の頃の話だ。

 俺は若松町のさいか屋横須賀店の文房具売り場にいた。目的はずばり万引きのためだ。所持金は数百円もない、貧乏だった。

 フロアマップでどのように逃げればいいかも下見してある。今日はプラスというメーカーのおしゃれな文具セットを盗るつもりだ……おっといけない。周囲をさりげなく見渡して、店員の監視があるかの確認をしなきゃ。

 よし、監視はいないようだ。俺は所持金が足りないのに文具セットに手を伸ばしたのだった。

 そういえば、どうして万引きを始めたのか思い出せない。悪友の影響なのか、クラスメイトがおしゃれな文房具を見せびらかしてたから「俺も欲しい」と思ったからか……気づいたら盗んでいた。

 万引きの瞬間のドキドキはたしかに楽しみの一つだが、それよりも楽しみなのが、いくらの儲けになったかを、適当なチラシの裏にゲームの得点のように、数字を足していく時がはるかに楽しかった。それは俺の薄暗い秘密の楽しみであった。

 万引きは成功してプラスの文具セットが俺の手に入り込んできた。俺のあとを走ってついてきたスーツの男、あれは店員か警備員にちがいない、ザマーミロ。

 こうして俺はにやけた表情をしつつ、早足で自室に戻りチラシの裏にメモを増やしたのだ。加算一五〇〇円なり。

 そういえば食品類の万引きはよく覚えていないが、駄菓子屋でやったかも知れない。記憶とは曖昧なものだ。

 一度だけ万引きに失敗して店員につかまった事がある。

 京急線の横須賀中央駅の脇にある、平坂という急な坂の途中にある本屋で、こともあろうに週刊少年ジャンプを万引きし、失敗したのだ。

「ごめんなさいー!」

 俺は大きく叫ぶような声を上げていた。

 俺は少年ジャンプ……A四版の雑誌だから相当な大きさだ……を抱えながら万引きした書店から逃げて走ったが、追いかけてきた店員に捕まってしまったのだ。不覚、やりすぎ、残念。

 これからどうなるのだろう……と考えると同時に今までの悪行を思い出していたのだった。だが、こっぴどく怒られただけで、店員は警察も親も学校も巻き込まなかった。今思えば店員が甘かったと思う。捕まった俺が指摘するのはなんだけども。

 楽しくやっていたはずの万引きもあっけなく終了する、前述の捕まった時か?いや違う。

 捕まった日とは別の日だったと思う、帰宅するとチラシの裏に書いた秘密のメモが親にみつかっており、万引きのスコアが広げられていたのだ。

 この辺、万引きについて怒られたか記憶が曖昧で、他にも親に対しての不平や不満、例えば「いつも弟と比較するのがウザい」であるとか「死にたい」等をメモしてたので、それを見られた事への怒りの方が強かったのを記憶している。

 いくら親兄弟でも、秘密のメモをのぞき見するって行為はないんじゃないかな?プライバシーの侵害だぜ。という具合に言いがかりや逆ギレである。

 もちろんこの感情は理不尽さへの反応だ。過度に干渉してきた両親への反発心からの万引きというストーリーには適してると思うのだ。いや、思いたい。

 そういえば、万引きした文房具とかどうしたっけ?使った記憶もないし捨てた記憶もないのだが、もしかしてウチの両親の事だから天袋にでもしまいこんで「なかった事」にでもしてるのではなかろうか?なにせ両親の離婚と後妻との結婚をも「なかった事」にして俺をだましてた父親の事だもの、なんでもやりかねない。不良少年より予測不能の行動をする人だからな。

 そういえば、万引きは悪、盗みは悪い事。そんなふうに俺は思ってないのは成長しても同じだ。必ずバレる、捕まるからやらないだけにすぎない。そんな歪みを持っている。

 あの万引きの金額のスコアが加算されていく、貯蓄が増えるかのような感覚はとてつもない快楽として俺に刻み込まれたからだ。そんな気がしている。

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